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抗酸化物質と糖尿病の関係
アンチオキシダント(抗酸化物質)なんていう化学用語がすっかり日常生活の言葉になってしまいました。老化のフリーラジカル説も1956年にアメリカのD.ハーマンが提唱した当初はあまりウケませんでしたが、今では知らない人はいません。そのせいか強力な抗酸化作用を謳うサプリメントが店頭にあふれています。しかし抗酸化剤が健康にいいというのは、きちんとした科学的根拠があるのでしょうか?糖尿病による高血糖はからだか酸化的ストレスを強く受けている状態。ブドウ糖はもともと還元力が強いもので、電子を他に与えやすい性質があります。一方で酸素は電子を非常に受け取りやすい性質(つまり、酸化)があるので、どうしても糖尿病のからだは活性酸素が過剰にある酸化的ストレス状態になりやすいのです。さらに悪いことには、活性酸素を除去する酵素SOD(スパーオキシドジスムターゼ)にブドウ糖がベタベタとくっつき、からだが備えている抗酸化のその活性を阻害してしまうため、活性酸素の量がさらに増えてしまいます。
糖尿病者の血中には、活性酸素の一種である「過酸化脂質」が健常者に比べ明らかに増加していることがわかっています。これが細小血管を障害して糖尿病合併症の起因になると考えられているので、抗酸化サプリメントには気が動きますね。
抗酸化物質は健康にいい?
抗酸化物質が健康にいいということは、一応そうだと考えられています。からだが食物からエネルギーを取り出す過程で生じるフリーラジカル(活性酸素もその仲間)が遺伝子やタンパク質を損傷して、ガンや心臓病、認知症、糖尿病、眼病など、そして老化そのものも引き起こす一因だからです。私たちのからだは年に2kg以上の活性酸素を体内で生成していると見積もられていますから大変な量です。からだはその危険な活性酸素を消去するSOD、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなどの酵素を用意していますが、その防御は100%ではありません。
そのため、微量栄養素として取るビタミンA、C、Eやセレン、ポリフェノールなどの抗酸化作用のある物質が注目されているのです。
抗酸化物質の過剰摂取は逆効果?
ところが本当に抗酸化物質がどのように私たちのからだを防御しているかは、まだサイエンスは答えてくれていません。試験管内や実験動物どまりです。それなのに食品で取るものより、もっと大量の抗酸化物質をサプリとして摂取しています。そこで2007年のアメリカ医師会誌(JAMA)に抗酸化サプリメントを調べた68の治験結果をメタ分析した論文が載りました。抗酸化作用のあるセレンやベータカロテン、ビタミンA、C、Eなどのサプリを摂取した人、プラセボ(偽薬)の人、全く取らなかった人の死亡率を比較したのです。
結果は驚くものでした。サプリでベータカロテン、ビタミンA、ビタミンEを摂取した人たちは死亡率が高かったのです。セレンとビタミンCは死亡率の変化はありませんでした。結論として、抗酸化サプリは有用なのか危険なのかは依然として不明なのです。
その謎を解くヒントが2009年5月に発表されました。カリフォルニア大学サン・ディエゴ校のTrey Idekerらが「生物は軽微な酸化ストレスに晒されていた方が、抗酸化力を強めるための遺伝子をより多く発現させる」ことを酵母の実験で発見したのです。どうも抗酸化サプリを大量に摂取してからだの酸化的ストレスを軽減しすぎると、活性酸素の攻撃に弱くなる可能性があります。海水浴でいきなり太陽光に晒せば火傷しますが、日頃から少しずつ日光浴していれば皮膚は強くなりますね。活性酸素は決して100%からだに有害なものではありません。ベータ細胞からインスリンを分泌する時にも活性酸素が存在する証拠がありますし、からだを守るマクロファージが侵入した細菌を攻撃する武器も活性酸素ですから消去しすぎてはいけないのでしょう。運動や断食による酸化ストレスは長寿遺伝子をオンにすることも知られています。
一番大切なのは毎日の食生活
サプリではどこまで取ったらいいのかが分かりません。「過ぎたるは なお及ばざるがごとし」ですね。そこでやはり抗酸化物質は野菜やフルーツ、未精白穀物、オリーブオイルなどの安全が保証された食品が頼りになります。ベータカロテンはニンジンやホウレン草、ルテインやゼアキサンチンはグリーンピースやカボチャ、ビタミンCはピーマンやブロッコリ、ビタミンAは玉子やケール、ビタミンEはアーモンドやオリーブオイル、セレンはブラジルナッツ、マグロ、大麦etc……。どうもヘルシー食品には安全に抗酸化作用をする相乗効果があるようなのです。冒頭のフィンランドの研究も食品からの分析でした。
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