薬物依存症とは……覚醒剤や麻薬、アルコールなどへの強固な依存状態
覚せい剤や麻薬などの原因薬物に対する依存が強く、自分の意思の力だけではコントロールができなくなってしまう薬物依存症。
他人からは、本人の性格の弱さやだらしない習慣などが原因だと誤解されがちですが、実際の原因は脳内の神経科学的変化にあります。さらに、脳の変化を悪い方向に拍車をかける心理的、環境的要因などが複雑に絡んでいるため、薬物依存症から回復するためには適切な治療が不可欠です。薬物依存症の具体的な治療法について詳しく解説します。
薬物依存症の治療ゴールは「原因薬物に二度と近づかなくなること」
薬物依存症のゴールは、その原因薬物が何であれ「原因薬物に二度と近づかなくなること」とも言えます。例えば薬物依存の一種であるアルコール依存症なら、体内に二度とアルコールを入れない状態になることが治療ゴールです。間違ってはいけないのは、適度に飲酒できるようコントロールできるようになり、時に1杯ぐらいで上手にアルコールと付き合えるようになることがゴールではないということです。なぜなら、薬物依存症になってしまったということは、性格や意思の問題ではなく、神経科学的変化が原因だからです。一度薬物依存症になると、その原因薬物によって脳内に神経科学的変化が生じ、体がその薬物の作用を覚えた状態になります。再び原因物質が体内に入った時点で、本人の意思がどれほど強くとも、再びコントロールを失ってしまいます。適度に嗜むことをゴールにすることはできず、二度と体内に入れないという徹底した目標を置かなければならないのはこのためです。
「原因薬物に二度と近づかない」というゴールを目指し、薬物依存症の治療は以下のように入院療法、外来通院療法の2種類で行なわれます。
入院療法による薬物依存症治療……全身状態や自殺リスク・合併症状への対処も
全身状態が悪化している場合や自殺のリスクがある場合など、本人の状態を24時間確認して対処すべき時には入院が必要。入院中は本人の体内に原因薬物が全く入らない環境になり、いわゆる禁断症状のような退薬症状にも迅速に対処することができます。そのため、なかなか禁煙できないニコチン依存症など深刻度が低い場合を除き、薬物依存症治療の最初のステップは入院療法が望ましいと考えられています。入院期間は依存状態の深刻さによります。感染症や臓器の機能低下など、身体的な合併症状への対処がなされ、心身ともに安定した時点で退院。以後は外来通院で治療を進めます。
外来通院療法による薬物依存症治療……心理療法・薬物療法・ストレス解消も大事
外来通院中は心理療法(精神療法)がメイン。必要に応じて薬物療法が行なわれます。心理療法では、薬物依存症に対する理解を深めることによって2度と原因薬物を体内に入れないためのモチベーションを高めると同時に、原因薬物に手を出したくさせるような心の葛藤や苦悩に対処し、生活環境からのストレス解消術を向上させます。薬物療法は、別に合併している心の問題があるとき、必要に応じて行います。例えば不眠に対しては睡眠薬、気持ちの激しい落ち込みに対しては抗うつ薬、強いイライラに対しては精神安定剤などで適切に対処し、原因薬物に再び手を出したくなるような心的状態に陥るのを防ぎます。
家族・友人のサポート、自助グループへの参加も有効
薬物依存症の治療ゴールである「二度と原因薬物を体内に入れない状態」をキープする上で必要なのは、最終的には本人のモチベーション。モチベーションを維持する上で、家族や友人など周囲からのサポート、交流は大きな励ましになります。しかし現実には、薬物依存症に関わる問題行動で家族や友人から距離を置かれて孤立している患者が多いことも事実です。治療開始後にそれまでに人間関係を再構築していくことも、薬物依存症からの回復における大きなチャレンジの一つですが、こうした困難に立ち向かう時は仲間がいる方が心強いものです。同じ目標に向かっている仲間の存在を知り、知識を共有するためにも、アルコールの場合は『AA(アルコホーリクス・アノニマス)』などの自助グループを主治医に紹介してもらい、自発的に参加することが望ましいです。
薬物依存症の予防法
以上のように、一旦薬物依存症になってしまうと、回復までには、かなりの時間、労力が必要になります。依存症になる前の段階での予防を考えることが先決です。普段から薬物依存症に関する知識をしっかり高めておけば、特に依存性が高いと言われている麻薬や覚せい剤などの薬物に興味本位に手を出してしまうリスクは減らせますし、アルコールなどへの身近な薬物に対する接し方も、早い段階から適切にコントロールすることの大切さを考えられるはずです。もし身近な人が問題を抱えていると感じたら、早めに精神科での相談を勧めるなどして、サポートすることも大切。まずは薬物依存症への正しい知識を持って、予防第一に考えるようにしましょう。