無精子症でも子どもができる可能性
通常妊娠が難しい「無精子症」と診断されても、精子が1つでも見つかれば妊娠できる可能性があります
しかし現在、医療技術の進歩に伴い、男性側が無精子症のご夫婦でも子供を授かる治療法が開発されています。それが、男性の精巣を直接調べ、精子の有無を検査する「精巣精子採取法(TESE)」。
今回は天神つじクリニック副院長、横山先生に男性不妊治療の一つであるTESEについて詳しくインタビューをさせて頂きました。以下で横山先生へのインタビュー内容のまとめとしてご紹介します。
精巣精子採取法(TESE)が適応されるケースとは?
精液検査で精子が確認できない「無精子症」の場合、TESEが適応されます。精液中に精子が確認できても、数がごくわずかな場合や精液が正常に出てこない射精障害の場合も適応となることがあります。無精子症は閉塞性と非閉塞性に分けられますが、「閉塞性無精子症」は精子の通り道である精巣上体や精管の中が詰まり、精液の中に精子が出てこれない状態。一方、「非閉塞性無精子症」は精巣の中での精子形成機能が全くないか、高度に低下しているため精液中に精子が認めらない状態を指します。
非閉塞性無精子症ではTESEがお子さんを授かる可能性のある唯一の方法です。閉塞性無精子症では閉塞部位を再開通する精路再建術が第一選択になりますが、奥様の年齢などによりTESEのほうが良いと判断されることもあります。
TESEの種類と選び方は?
天神つじクリニック副院長、横山先生。TESEについて詳しくお話していただきました
■Conventional TESE
閉塞性無精子症や射精障害のように、射出された精液の中に精子を認めないだけで精子形成機能に問題がなく、高い確率で精子が回収できると予想された症例が適応となります。精巣のごく一部の組織を採るだけで精子を回収できる可能性が高く、創の大きさも小さくすみます。
■microdissection-TESE (MD-TESE)
精子形成機能が低下している非閉塞性無精子症の場合に適応。顕微鏡で精巣の中をくまなく観察し、精子がいる可能性の高い太い精細管を採取して精子を探します。
TESE前に準備すべきことは?
手術の前に必要な検査をすべて済ませておけば、特別な準備は必要ありません。TESEの手術時間は?
当院の場合でいうと、TESEは全例で日帰り手術で行っています。前後の処置の時間を含めてconventional TESEなら約1時間、MD-TESEでは1時間30分から2時間くらいです。手術中・手術後の痛みの程度は?
陰のう皮膚の切開部位と精索(精管や精巣動静脈、神経が入っている束)の中に局所麻酔薬を注射します。麻酔薬を注入する時は痛みますが、すぐに楽になります。手術の途中でも痛みを感じた時点で麻酔薬の追加ができるので、手術中に痛みを感じることはほとんどありません。ただし麻酔薬は痛みをとりますが触覚は残るので触られている感覚や引っ張られるような感覚は残ります。
麻酔が切れてくると精巣にボールが当たったときのような痛みを感じる患者さんが多いようです。しかし鎮痛薬を定期的に内服してもらいますし、必要に応じて座薬を使用することで、我慢できないような痛みが出ることはほとんどありません。
手術後に気をつけなければいけないことは?
陰のうは伸び縮みするのでちょっとした出血でも止まりにくい傾向があります。術後の痛みや出血などの合併症を防ぐために、手術当日は安静にしてサポーターをきちんと着用すること。また抗菌薬や鎮痛薬など処方されたお薬をしっかり内服することも、もちろん大切です。TESEの手術費用の目安は?
当院の場合ですが、TESEの手術費用は閉塞性無精子症で157,500円、非閉塞性無精子症で210,000円です。精子の採集はどれぐらいの確率でしょうか?
TESEによる精子回収率は閉塞性無精子症の場合は約95%、非閉塞性無精子症では約20~40%です。不妊専門クリニックへの精子の輸送方法は?
TESEで回収できた精子は凍結保存しますが、顕微授精を受けられる医療施設には専用の容器に入れて搬送しています。TESEを行う医療従事者として伝えたいこと
男性不妊の10人に1人は無精子症と言われています。以前は無精子症というだけでお子さんをあきらめねばなりませんでしたが、今は医療技術が進歩したおかげで挙児の希望があります。無精子症で悩んでいる方のお力に少しでもなれればと思っていますので、質問などがあれば遠慮なくご相談ください。インタビューを終えて
インタビューを終えて、TESEと顕微授精の技術が進んだお陰で子どもを授かる方が増えたことは、医学界でも革命と言われるぐらいの成果だと感じました。今までであればあきらめなければならなかった無精子症の患者さんでも妊娠の可能性を持てるということがとても患者さんの心を勇気づけると感じます。このテーマはまだまだ奥が深いので継続取材をしていきたいと思っております。
関連サイト
・天神つじクリニック
・恵比寿つじクリニック