前立腺のしくみと働き
前立腺が大きくなると、過剰な収縮によって尿道を圧迫する
前立腺の主な働きは、精液の成分の一部となる前立腺液をつくることです。前立腺液は弱アルカリ性で、果糖などをたくさん含んでいます。このため、酸性の膣内を中和して精子を動きやすくしたり、精子に運動エネルギーを与えたりすると考えられています。
前立腺肥大症の原因
前立腺肥大症は、前立腺をいくつかの領域に分けたときの「移行領域」(以前の呼称は内腺)と呼ばれる尿道のすぐ脇にある部分に腺腫ができるために、尿道が圧迫されて狭くなり、尿が出にくくなったり、尿の回数が多くなったりする病気です。ちなみに、前立腺がんは「辺縁領域」(同、外腺)にできます。原因は、男性ホルモンの作用とも、女性ホルモンの作用ともいわれます。高齢になれば、男性ホルモンが減り、女性ホルモンが相対的に増えるので、こうしたホルモンバランスの変化が関係していると考えられていますが、詳しい原因ははっきりとは分かっていません。
ただ、若いときに、なんらかの理由で去勢した人や、生まれつき精巣のない人には前立腺肥大が発症しないことから、肥大には男性ホルモンの役割が大きいと考えられます。
60歳以上の7割が肥大
前立腺肥大症は、組織学的には、だいたい40代から始まります。60歳以上になると7割に、80歳以上では8割に肥大症の組織がみられます。昔に比べると、近年は老人の人口比率が高まってきたため、肥大症に限らず、前立腺の病気を訴える患者さんが増えてきました。前立腺肥大とは別物
言葉が似ているので、前立腺肥大と前立腺肥大症とを混同されることがありますが、これらは意味するところが違います。前述したように、前立腺肥大は「前立腺という組織の中にできる腺腫の増殖=良性腫瘍」です。前立腺肥大症は、前立腺肥大によって膀胱の出口付近の尿道が圧迫されることによって通過障害が起こり、頻尿や尿意切迫、排尿障害など、さまざまな自覚症状(下部尿路症状)が発症する状態をいいます。
明らかに前立腺肥大でありながら、前立腺肥大症の症状をまったく自覚しないで長生きする人は珍しくありません。ですから、前立腺肥大の人がすべて、前立腺肥大症であるとはいえません。前立腺肥大であって、治療を要する人の割合はだいたい4分の1です。
前立腺がんとも別物
年齢別の罹患率や自覚症状の有無からも明らかなように、前立腺肥大症は長い時間をかけてゆっくりと進行します。しかし、きちんと治療すれば、怖い病気ではありません。別項で詳しく述べますが、前立腺肥大と前立腺がんは、お互いが独立して起こる、まったく別の病気です。ですから、前立腺肥大が進んで前立腺がんになるわけではありません。
ただ、両者が同時期に起こることはありますので、前立腺肥大症の検査においては、前立腺がんではないことを確認することも重要となります。