胸痛が生じるメカニズム・呼吸器疾患
胸痛のとき、まず疑うのは心臓の病気です
胸痛のために医療機関を受診する患者さんは意外なほど多いです。胸痛は腹部の病気でも起こりえますが、原因として多いのは、心臓・大血管疾患、呼吸器疾患(気管支・肺の病気)、胸膜疾患といった胸の病気です。ただし、誤解を受けやすいのですが、肺そのものは痛みを感じることのない臓器です。ところが、実際には肺炎のときにも呼吸をするたびに胸の痛みを感じることがあります。
これは、肺を覆っている胸膜と呼ばれる膜に炎症が及び、胸膜炎を併発した状態です。肺の側にある臓側胸膜には痛みを伝える神経はありませんが、肋骨や筋肉に接する壁側胸膜は肋骨神経の支配を受けており、この神経を伝わって痛みを感じているのです。このため、胸膜に由来する胸痛は、呼吸をするたびに胸膜がこすれて摩擦によって痛みを感じることや、病気のある部分に限局していることが多いのです(右の下腹部に痛みが放散して、急性胆嚢炎や虫垂炎などと区別がしにくいこともあります)。
また、風邪や急性気管支炎などで咳が止まらない、咳がずっと続くという場合には気管・気管粘膜痛と呼ばれる痛みとして感じることがあります。
心臓・大血管疾患による胸痛
心臓疾患による胸痛は、一部の不整脈、狭心症・心筋梗塞が代表的です。狭心症は心臓に栄養供給を行っている冠動脈が狭くなり、血液の流れが悪くなるために胸痛が出現します。この場合の胸痛の持続時間は5分から10分程度で治まることがほとんどです。しかし、冠動脈が完全に詰まってしまうと、そこから先の心臓の筋肉に血液がめぐらなくなるため、栄養を受けていた心臓筋肉が壊死(細胞が死んでしまう)してしまいます。この状態が心筋梗塞です。
また、特殊な狭心症として、微小血管狭心症と呼ばれる病態があります。心臓の筋肉を走るごく細い血管が狭くなったり、詰まったりして胸痛を起こすものです。一般的な狭心症が男性に多いのに対して、この病気は中高年の女性に多いと考えられています。心電図などでは変化がみられないことが多く、このごく細い血管の中を調べるには非常に特殊な検査が必要なため、症状から診断されることもあります(のどや背中など、体の他の場所にも痛みを感じることがあります)。