外傷性咬合(がいしょうせいこうごう)の症状
私たちは普段何気なく食べ物を噛んでいますが、咬み合わせる力は想像以上に強いもの。最高で60kg以上もの力で歯を噛みしめることができることは、あまり知られていません。噛み合わせ(咬合・こうごう)に問題があると、この本来持っている噛む力の強さが原因で、歯や顎などを痛めることがあります。このような噛み合わせを、外傷性咬合と呼んでいます。
症状は、虫歯もないのに噛むと痛む、違和感、浮く、歯が欠けるなどが良く起こります。歯周病と併発して歯周病が悪化してしまうこともしばしば見られます。
症状が出ている歯は、あごを擦り合せたり噛み合わせた時に、その歯の許容範囲以上の力を受けていることが多いため、噛み合わせの調整が行なわれます。
噛み合わせ調整とは?
臨床では歯を僅かに削るだけで歯の寿命が延びることもしばしば
このためまず、単純に噛んだ状態で特定の歯に噛み合わせの力が余分にかかっていないかチェックし必要があれば少し削ります。次に歯ぎしりなどを行ない、あごの動きにも邪魔にならないように削り合わせます。
噛み合わせ調整では、あごの動きに歯の形態や噛み合わせを合わせるのが原則です。もし歯の形態を優先してあごの動きを無視すれば、外傷性咬合となり歯が欠けたり、浮いたりすることになります。
健康な歯は噛み合わせ的には不健康?
誰でも自分の歯を削ることには抵抗があります。虫歯のない健康な歯であればなおさらです。しかし現代人の場合、あごの骨が小さめで、歯並びが乱れてしまうことが多いため、歯そのものは虫歯でなくても、全体を噛み合わせ面からにみると理想な状態とは言えないのも事実なのです。ご存知のように歯の形態は複雑で、まるで凸凹した山脈のようです。歯の1本1本にこの凸凹があり、その歯が湾曲しながら並んでいます。理想的な噛み合わせを分かりやすく例えるとノコギリ2本を湾曲させながら、ノコギリの歯と歯をぴったり合わせるようなもの。簡単にはいきません。
さらに噛み合わせた部分から、歯を前や左右にスライドさせる必要があります。このあごの動きに対しても邪魔にならないよう、さらに歯の表面の山脈同士を合わせなくてはならないのです。
自然に並んだ歯並びでは、全ての歯がこの動きに合わせた形態で、さらにそれぞれの動きに調和した位置関係にきちんと並ぶことは困難です。そのため健康な歯でも形や位置などに問題があれば、相手側の歯にダメージを与えることがあるので噛み合わせ面を削り、力を分散して負担を減少させる方が、歯としては長持ちするのです。
実は奥が深い噛み合わせ調整・治療
噛み合わせを調整で歯と歯がぶつかる部分を削ると、噛み合わせた時に歯にかかる力や押される方向を修正することもできます。そのため次のような要素を考えバランスを合わせます。■歯や根の形態
小さな歯に大きな力がかかる咬み合わせは歯を痛めます。そのため根の形態や長さにあわせた力を配分することも大切。
■骨の密度
一般に上あごは密度が低く、下あごの骨は密度が高いため、咬み合わせの力の配分の際の参考にすることもあります。
■あごの動きや位置
単に口を閉じ動きで噛んだときは問題なくても、奥歯で物をすり潰すようなあごの動きに対しても。邪魔にならないような歯と歯の凸凹になるように調整しなければなりません。
■上下的な位置関係
整った歯並びに対して歯が伸びていたり、沈んでいたりと凸凹し、歯並びが上下的に乱れがある場合、調整が必要なことも。
■水平的な位置関係
頬っぺた側の外側にある歯や、舌側の内側にある歯など、水平的な歯並びの乱れがある場合にも歯や骨などに負担が掛かることがあり、調整が必要なこともあります。
■歯周病の有無
歯周病が進行していると、その分歯を支える骨の量が少なくなります。健康な歯と同じような力がないため、少し咬み合わせの力を弱める調整が必要なこともあります。
■素材の違い
自然の歯は、金属やセラミックと硬さが異なるため、被せ物などの時間が経過しているときには、時間とともに表面がすり減ったりして、咬み合わせ部分が製作当初と変わっていることもあるため、調整することがあります。
咬み合わせの調整は、ただ歯を僅かに削っているように見えます。しかし実際には、様々なバランスを考えながら、口の中という3次元の空間にバラバラに並んでいるような状態の歯があり、さらに歯の表面にある3次元の凸凹山脈を、あごの動きという3次元の動きにあわせて削り合わせるという奥の深い作業なのです。