脳・神経の病気/多発性硬化症(MS)

多発性硬化症(MS)の症状・原因

近年増加傾向にあり、さまざまな症状が現れる多発性硬化症(MS)。多発性硬化症に対する正しい知識をつけていただくために、主な症状と考えられている原因について、わかりやすく解説いたします。

菅原 道仁

執筆者:菅原 道仁

医師 / 家庭の医学ガイド

多発性硬化症(MS)とは

私たちの体は神経線維のネットワークによってコントロールされています。手を動かしたり、温度を感じたり、物を考えたり、私たちがなんとなく行っている行動すべては神経の働きです。この神経のネットワークは、町中に張り巡らされている電線と同じようなもの。微量の電気信号を利用しながら体の隅々まで脳からの命令伝えたり、私たちの回りの情報を脳に伝えたりしています。
多発性硬化症(MS)は高齢者よりも働き盛りな30代に発症するのが一般的。神経細胞が変性をしてしまうことによって、眼が霞んだり、手足が痺れたり、排泄後遺が困難になったりします。

多発性硬化症(MS)は高齢者よりも働き盛りな30代に発症するのが一般的。神経細胞が変性をしてしまうことによって、眼が霞んだり、手足が痺れたり、排泄行為が困難になったりします



多発性硬化症という病気は、この神経線維が変性してしまうことにより引き起こされます。専門用語で「脱髄」といいますが、体の隅々まで張り巡らされている神経が変形しまうため、目がかすんだり、手足がしびれたり、歩きにくくなったり、排便がスムーズにできなかったり、ありとあらゆる症状が出現します。

多発性硬化症は健康な成人を突然冒し、平均発症年齢は30歳代と言われています。高齢者には極めてまれな病気ですが、若い頃に多発性硬化症を知らずに発症しており、それが後に再発するというパターンもあります。

多発性硬化症(MS)の原因

多発性硬化症は、神経細胞が変性してしまうために引き起こされる病気ですが、なぜ、神経細胞が変性してしまうかどうかは厳密にわかっていません。有力な説は、あらゆる外敵から私たちの体を守ってくれる免疫系が、何かの拍子で自分の神経細胞を攻撃してしまうからではないかと言われています。

多発性硬化症(MS)の症状

多発性硬化症はあらゆる神経が冒される病気なので、極めて多彩な症状が出現します。主な症状は以下の通り。

■視力低下・視野欠損
通常は片側の眼だけに起こり、両目が全く見えなくなることはまれ。通常は数週間以内に回復しますが、ときに再発することがあります。目の真ん中に症状が出て、細かい字が見にくくります。直射日光を避けるためにサングラスをしたり、長時間の読書やテレビなどは控えるようにしましょう。

■物が二重に見える
目を動かす神経の機能が低下すると、左目と右目の視線がずれるため、物が二重にみえます。一方の目を隠せば普通に見えるので、眼帯をつけて生活を行わなければならないこともあります。

■飲み込みにくい・しゃべりにくい
喉を動かす神経が障害されると、つばが飲み込みにくくなったり、むせたりしやすくなります。声が枯れたり、顔の筋肉の動きが悪くなった場合、思ったような声が出ないことも。

■ふらふらする
バランスをつかさどる小脳が障害されると、ふらふらしてまっすぐに歩けなくなります。こうなると転びやすく怪我をしてしまうこともあるので、滑りやすい靴ははかない方がいいでしょう。

■手足が動かしにくい・突っ張る感じがする
筋肉が緊張してしまうので、体が硬くなったような感じになります。とくに足が突っ張る感じが多く、歩きにくくなります。予防するには姿勢を正して猫背にならないよう心がけたり、水中ウォーキングをしたりすることが有効。薬を使って筋肉の固さを取ることも。

■物忘れ
大脳の機能が低下すると、記憶力、判断力、注意力、集中力が低下します。多発性硬化症(MS)においては物忘れの症状が軽いことが多いので、過度の心配は無用です。

■尿や便がうまく出ない
脊髄の障害で、排尿や排便の障害が出ることがあります。ふいに尿が出てしまったり、トイレに行く回数が増える場合は携帯トイレを有効に活用しましょう。逆に尿が出にくいときや便が出にくいときには内服薬が有効です。

熱いお風呂に入ったり夏の日に外に出たり、自分の体温が上がったりすると症状が悪化することがあいます。体温が下がれば症状は改善するので、氷や冷水などで体を冷やすようにするといいでしょう。

多発性硬化症は、近年、増加傾向にあるという報告がありますが、最近の疫学調査では10万人中8~9人の発症率といわれているので、決して多い病気ではありません。多発性硬化症はいろいろな症状が出現するので、皆さんが自覚されている症状と一致するものが数多くあると思います。無用な心配を避けるためにも、多発性硬化症に対する正しい知識を得て、不安や疑問がある場合は神経内科を受診するようにしましょう。
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