がん治療で「手術を行わない・できない」ケース

考える医師

がんの治療において、やはり外科手術は直接的かつ効果的な治療法です。可能な限り手術をしたいと外科医も思っていますが、手術ができない症例というものも確かに存在します

いろいろな検査で、体の中にがんがあると分かったとすると、それを全て体から取り除いてしまいたいと感じる方がほとんどだと思います。しかし、実際には手術を行わない、もしくは、手術ができないケースがあります。テレビドラマなどでも、「がんが見つかったが手術はできない」、「手術は一応やってみたが、結局おなかを開けただけですぐに終わった」という台詞が出てくることもあります。「手術不能」という言葉の裏に隠された本当の理由をわかりやすく解説します。

手術適応とは……重要な3つの観点

外科医が最初にたたき込まれるのは、手術適応についてです。手術適応というのは、あまり聞き慣れない言葉だと思いますが、要するに、「この患者さんに手術をすることの妥当性」ということです。手術適応については、次の3つの観点から考えます。

  1. 内科的治療の限界に達しており、外科治療が最も有益な治療法であるか
  2. 外科手術のもつ危険性をその効果が上回っているか
  3. 外科手術を行うことによって患者さんの生命予後が改善する可能性が高いか

これら3つの条件がクリアされていないと、手術療法を行わない、つまり手術不能という状態と判断します。

がんが広範囲に及んでいる場合は手術できないのか

がんが広がりすぎているとき
がんを切除するためには、一回の手術で完全に取り切ることがポイントです。
次に手術不能となる具体的な理由についてご説明します。手術不能となる理由で、おそらくもっとも多いのが、このがんが広がりすぎている場合です。とくに、がんが元々できた臓器以外に転移していた場合や、播種と呼ばれる腹膜や胸膜に散らばっていた場合には、たとえ物理的に切除できる大きさや個数だったとしても手術は行いません。

治療の第一歩! がんの検査と診断を知ろう」でも書いたように手術前にはいろいろな検査を行いますが、これで他の臓器への転移が見つかった場合にはその時点で手術を行わずに抗がん剤治療や放射線治療といった別の方法を行うことになります。

近年、検査法は進歩していますが、転移を完全に見つけることはできません。特に1cm未満の微小な転移巣の場合には、なかなか難しくなります。さらに、腹膜播種や胸膜播種なども画像上は大きな変化は認められないことも多く、「転移巣なし」と判断して手術を開始したものの、手術中に転移巣が見つかった場合にはそのまま何もせずに手術を終了してしまう場合もあるのです。

手術適応は年齢・現病歴・既往等の総合判断で決断

手術に耐えられないケース
外科手術そのものに耐えることができないケースでも、やはり、手術はできません。
手術の多くは全身麻酔で行いますが、手術を受ける以前に全身麻酔に耐えられることが確認されていなければ、やはり手術を行うことはできません。たとえば、重症の心不全や呼吸不全がある場合には、胃がんがあってもその治療法はよくよく考えておかなければならず、場合によっては手術をしないという判断もあるでしょう。

もちろん、腫瘍から大量に出血をしていて、手術をしなければ生命が危ないという場合には、心臓や肺の機能に細心の注意を払いながら手術を行うケースもありますから、まさにケースバイケースではありますが。いずれにしても、「外科医はすぐに切りたがる」といったことを、患者さんのみならず、時には内科系の先生に冗談交じりに言われることがありますが、私の知る限りそういう外科医はいません。

手術の適応をしっかりと見極めた上で、手術が患者さんにとってベストの治療法であると確信した場合にのみ手術を行うのが基本中の基本です。それ故に、どうしても手術不能という状態が出てきてしまいますが、それは患者さんにとって何がベストかを判断した上での決断になります。

がんには手術、抗がん剤、放射線という3つの治療法があります。手術をしない、もしくはできないとなっても、私たち医師は残りの方法も駆使して治療に取り組んで行きます。
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