癌(がん)/がんの手術治療

なぜ、手術翌日から歩かされるのか?(2ページ目)

一大決心をして受けたがんの手術。いくら予定通りに終わったとはいえ、翌日の朝から歩こう、と主治医の先生に言われて驚いた方はいらっしゃいませんか?その理由を解説します。

狭間 研至

執筆者:狭間 研至

医師 / 癌ガイド


長期臥床は体内に血栓を作る

長期臥床は体内に血栓を作る
長期にわたってベッドで寝たままの体勢をとっていると、体の血管の中で、血栓ができやすくなります。この血栓が体をめぐって、肺の動脈に詰まってしまうことがあるのです。
長期にわたってベッドで寝たままの姿勢を取っていると、たとえば、体の背中側や下肢の血管の中での血流が低下し、血栓ができやすくなります。

特に、下肢に静脈瘤ができている方などは、要注意です。

この血栓が、体の中を巡って、肺の動脈に詰まってしまうことがあります。これを肺塞栓症と言い、手術後に患者さんの容態が急変する理由の一つになっています。

手術後は、ただでさえ血液が固まりやすくなっていることが多いのですが、それに加えて、血流が悪い部位が長期臥床では増えてしまうので、血栓ができやすくなるのです。

数日間にわたって臥床していた後、初めての歩行後、急に胸が苦しくなるということが、肺塞栓症の典型的な症状で、場合によっては命に関わる術後の合併症です。

便秘や肺炎、術後せん妄の予防にも効果的です

便秘や肺炎、術後せん妄の予防にも効果的です
手術の翌朝から歩き始めることは、寝たきりや肺塞栓症の予防だけでなく、様々な良い影響をもたらしてくれます。
手術後には一般にそうですが、特に腹部のがんの手術後には便秘を来す例が多く見られます。これは、腸管の蠕動運動を司る自律神経の働きが一時的に不調になってしまうことが原因です。しかし、歩行によってこの自律神経のバランスが改善され、便通が整い始めることは非常に良く経験します。

また、ずっと臥床したままだと、重力に従い、痰が背中の方にたまってしまって肺炎になってしまうことがあります。術後の肺炎は時と場合によっては致命的な合併症になってしまうことがありますが、早期に離床して、しっかりと咳をして痰を喀出することで、痰を背中にたまらないようにすることは、肺炎の予防につながります。

さらに、手術後には、患者さん自身がなぜ自分が入院し、色々な治療をうけているのかといったことなどが理解できず、少し意思疎通に問題が生じるケースがあります。これを術後せん妄といいますが、この原因の一つが昼夜逆転です。翌朝一番から、体を清拭してもらい、すっきりして体を動かし始めることは、昼夜逆転を予防するためには非常に効果的です。

このように、手術後の「早期離床」は良いことづくめです。もちろん、非常に大きな手術をした場合などには、早期離床が難しい場合もありますが、そのような時には当然、主治医からのドクターストップがかかります。

しかし、手術した部分のキズの痛みは、鎮痛剤の服用や投与で、しっかりとコントロールしていただき、主治医の先生の許可が出れば、できるだけ早くにベッドを離れ、体を起こし、動かしていくことはとても重要なことなのです。

  • 前のページへ
  • 1
  • 2
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます