何が吸入式インスリンExuberaを失速させたか?
患者と医師の支持を得られなかったことに尽きると思います。太くて痛い注射針を患者が嫌がっている先入観が大きかったのでしょう。時代はすっかり変って、万年筆のようなインスリンペンの簡易さと投与の正確さ、短くて細い使い捨ての注射針は患者のインスリン自己注射を苦のないものにしてしまいました。
注射を怖がる幼児や子供の1型糖尿病にはこの吸入式インスリンは救いだったと思いますが、皮肉なことに18歳未満の使用は実績が十分にないことから禁じられていました。また、常温で保存できる粉末インスリンは冷蔵庫のない発展途上国には朗報ですが、手が出せない価格では全くのミスマッチです。
ファイザーは2型糖尿病者の60%が血糖コントロール不良である現実を示して、医師にもっとインスリンの処方を積極的にと働きかけていますが、糖尿病患者はもともとインスリンを使いたがらないものなんです。今の痛くない注射針でも吸入式であっても、インスリンは御免こうむりたいのです。この辺の心理も読み違えが感じられます。
また、吸入装置も大きくて、まるでテニスボールをいつも持ち歩くようですし、30cmも伸ばして使う装置はかなり異様です。インスリンの単位(ユニット)計算も従来の注射単位から換算しなくてはなりません。アメリカ人が加入している民間の健康保険会社も自己負担額の一番高いNon-Formulary扱いで、ドクターから保険会社に連絡して「この患者はこれ以外はダメなので認めて欲しい」という手続き「Prior Authorization」を指定しているところもありました。保険が効かなくては普及するわけがありません。
確かに同じ遺伝子組換えヒトインスリンのR(レギュラー)注射液はもうパテントが切れているので安価ですし、同じRを粉末にしただけで高価(効率が悪く大量に使う)なのでは保険会社も冷たくなるのでしょう。
医師にとってはExuberaを使う前に肺機能検査をやらなくてはならないのも負担でした。その後の検査も必要。そんなに手間をかけても、勧めた患者全員が元のインスリン注射に戻ってしまえばもうダメですね。
ファイザーは途中から宣伝文句を「注射針の痛みなし」からアメリカ人の最大の課題、糖尿病による虚血性心疾患防止に変えましたが時すでに遅く不発でした。
この失敗を糧に後続の吸入式インスリンがどう工夫するか、大いに楽しみですね。
関連リンク
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from All About[糖尿病]
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