視力の維持が望めます
糖尿病性網膜症患者を対象としたArxxant(アークサント)の治験では、非増殖性の中等度から重度の網膜症患者において、Arxxant(アークサント)はプラセボ(効果のない偽薬)に比べて持続的な中度の視力低下を41%抑制する成果が得られました。中度の視力低下とは、視力検査表で3ライン以上見えなくなった状態が少なくとも6ヵ月以上持続した状態です。2つのマルチセンターに分かれて行われた第III相試験では、計813人の中等度から重度の非増殖性網膜症のある糖尿病者が、3年間にわたって1日32mgのルボキシストーリン(Arxxant)あるいはプラセボを投与されました。
3年間の試験でルボキシストーリン投与群で視力低下をきたした患者は6.1%でした。一方、プラセボ群では視力低下は10.2%にも達しました。ルボキシストーリン(Arxxant)はプラセボに比べ有意に視力低下を抑制したのです(P=0.011)。
残念ながら増殖性網膜症には効果がありませんでした。増殖性網膜症というのは、網膜の細小血管の血流がわるくなると、それを補うように網膜は新しい血管をどんどん増やしながら延ばしていくのですが、これがとても弱いので大出血を起したり、眼球の中が血管でいっぱいになって視野が遮られて失明してしまうものです。
ルボキシストーリン(Arxxant)はPKC beta(プロテイン・キナーゼ・シー、ベータ)の過活動を防ぐ薬です
高血糖(糖毒)が血管を傷害するメカニズムは20年以上も研究されているのでいろいろな仮説があります。大きく分けると2つのカテゴリーになります。1つは糖毒が血管、網膜、腎臓などの組織を変化させて、硬くもろくしてしまうという考え方。もう1つは糖毒状態そのものが細胞内のシグナル伝達に干渉して血管病を引き起こすという仮説です。
このPKC(酵素のひとつ)は後者の考え方から見つかりました。糖尿病にしたネズミの実験で、この酵素の過活動が血管の障害に関連することが分かったのです。
ただ、この酵素(PKC)は生命に必要なものなので、全面的に阻害してはいけません。でも、PKCにはいろいろなタイプがあって、その中の「ベータ」というものの過活動を抑えることが糖尿病「三大合併症」の予防、あるいは進行を遅らせそうなのです。このルボキシストーリン(Arxxant)は選択的に「PKCベータ」の過活動を抑えるのです。
まとめ
この薬はまだ発売されていません。イーライリリーが10年以上もかけて開発したもので、日本国内の共同研究ならびに販売は武田薬品工業株式会社です。期待しましょう。それにしても高血糖による糖毒のメカニズムは複雑ですね。だから高血糖が体を損傷する経路はいろいろあると思われます。その意味ではこの薬は合併症の特効薬ではないでしょう。でも、人類が初めて手にする「三大合併症」の治療薬なのです。
A1C(エーワンシー)を5.9%以下に維持しながら新薬の登場を待ちましょう。