◆日本のエンブリオロジストのレベルをどのようにお考えですか?
A)15年前、我々を含め、日本の不妊ドクターやエンブリオロジストはアメリカやオーストラリアに学びに行っていました。しかし、現在ではほとんど互角と考えています。特に一年に300周期以上の症例のある施設においては互角、もしくはそれを超えているかもしれません。
しかし、欧米の方が進んでいる部分もあります。それは、着床前診断のような先端技術をどんどん取り入れるとか、あるいは精神的ケアです。カウンセリングのスキルなどバックボーンが充実しています。この点はどんどん見習うべきでしょうね。
培養室の様子です。 |
◆培養関係で最新のトピックスを教えてください。
A)そうですね、まず女性ですが最近、若い時に卵子を採って保存しておこうという動きが徐々に見られますね。まさに血液の保存と同じです。今までは受精卵のみの凍結保存がメインでしたが未受精卵の保存も増えてくると予想されます。
また、技術の進歩により卵巣組織の凍結保存により、がん手術や化学療法に先駆けて、未受精卵の凍結が可能となってきました。この2~3年でその技術も安定してくることでしょう。そして、それらの卵を成熟させる技術も進んでくるのではないかと期待しております。
男性側としてはICSIの時の精子をどのようにセレクトするのか?と言う部分でしょうね。現在は形態でしか選べないのですが、精子を6000倍に拡大してそれを見ることにより異常を把握できるシステムがあります。
また、人工的な子宮頚管を作り出すことにより、精子選別を行うと言う試みもされています。それにより元気で妊孕力の高い精子を選別できるというものです。
また、まったく別の話になりますが、私がイギリスに滞在した時(8年前)、白血病の7歳の男の子の精巣を凍結保存するケースがありました。理由は、その子が成長して結婚する頃には技術も進歩している科学に夢を託したいとのことでした。今は不可能であっても将来に託すという熱い研究者の意志に接し感動しました。このようなケースも増えてくるだろうと思います。こうした点からも精子や卵子の未成熟細胞の体外培養技術は重要な研究テーマと思います。
荒木所長です。気さくで優しい先生です。 |
◆先生は現在、エンブリオロジスト学会理事長ですが、将来的なエンブリオロジストの認定制をお考えだとお聞きしました。具体的に教えてください。
A)エンブリオロジスト学会の会員は現在、約500名所属しております。10%がドクターで90%がエンブロオロジストです。学会はこのメンバーが益するような活動が求められています。その中には学問的知識の普及や社会的身分の保障に繋がる活動が含まれます。
学会はエンブリオロジストが身分を社会的に確立させていく際、サポートする立場にあると考えています。その一つに学会はエンブリオロジストに認定証を発行しています。更に上位の資格者であるラボ・デレクターの認定を考えています。
実は現在、アメリカのエンブリオロジスト協会(AAB)の認定テストを日本語で受験できるように交渉中です。このラボ・デレクター認定を国際的なものにすべきAABと一緒に実施できるよう、我々の学会が窓口になって日本のエンブリオロジストの身分向上を企てるつもりです。そうすれば日本のエンブリオロジストも海外の医療機関で働ける道が開けることになります。現在、海外で活躍するエンブリオロジストも高まりつつあります。