女性の健康リズムを作る「卵巣」は沈黙の臓器
実は卵巣腫瘍は女性なら誰でも可能性のある病気。日ごろの注意深い観察と定期検診が必要です
「腫瘍」と聞くと、現在何の症状もなく健康だと自覚している人ならば、自分に関係のあるものだと思わないでしょうが、実は卵巣腫瘍は女性なら誰でも可能性のある病気。しかも卵巣は、「沈黙の臓器」と呼ばれるくらい、何かしらの病変があってもなかなか症状が現れない臓器なのです。卵巣は女性の健康のリズムを作る大切な臓器ですから、日ごろの注意深い観察と定期検診で早め早めに対応しましょう。
卵巣腫瘍とは……卵巣腫瘍の種類
卵巣は、アーモンドの粒~親指の先ぐらいの大きさの臓器で、右と左の両方に1個ずつあります。そして、なんと、実は卵巣は体のなかでもっとも腫瘍ができやすい臓器なのです。考えてみれば、生命のもとになる卵子があり、毎月細胞分裂しているのですから、当然といえば当然です。そんなわけで卵巣にはさまざまな腫瘍ができますが、その中には大きく分けて、良性のことが多い「卵巣嚢腫」と、悪性のことが多い「充実性腫瘍」があります。卵巣の腫瘍のうち約9割が「卵巣嚢腫」で残りの1割が充実性腫瘍です。
充実性腫瘍の代表例がいわゆる「卵巣がん」です。イメージとしては固いしこりのような感じです。症状としては小さいうちは無症状で、こぶしより大きくなると、固いしこりが下腹部にできたり、腰痛、下腹部痛、生理不順、また、場合によっては、腹水といって、おなかに水が溜まったりします。今回は良性の卵巣嚢腫について詳しく解説します。卵巣がんについて詳しく知りたい方は「症状がない!? 卵巣がんってどんな病気?」をご参照ください。
良性の卵巣嚢腫・皮様嚢腫、偽ムチン嚢腫、しょう液性嚢腫の特徴
卵巣嚢腫は、卵巣の中に分泌液がたまって腫れてしまうもので、イメージとしては、ぶよぶよした水風船みたいなものですね。で、たまる液体の種類によって皮様嚢腫、偽ムチン嚢腫、しょう液性嚢腫の3種類に分けられます。■皮様嚢腫とは
皮様嚢腫は成熟期の女性に見られ、妊娠中に見つかることも多いようです。髪の毛や、歯、筋肉などが含まれています。人間の臓器が一部できている感じだとイメージしてください(余談ですが、手塚治虫氏の『ブラックジャック』のピノコちゃんはこの「皮様のう腫」だったものをブラックジャックが人間にしたという設定です。もちろんあくまで漫画の話で現実的には無理です。念のため……)。
■偽ムチン嚢腫とは
偽ムチン嚢腫はねばねばした液体がたまるのう腫で、更年期の女性にできることが多いようです。これは人間の体にできる腫瘍のなかでもっとも大きくなるもので、人の頭くらいの大きさになることもあります。外国の症例で、「100キロにもなる卵巣嚢腫」というのがあるそうですが、多分、それはこの「偽ムチンのう腫」でしょう。しかしさすがにこれだけの大きさになる場合は、その前に何かしらの自覚症状があることが多いでしょう。
■しょう液性嚢腫とは
最後はしょう液性嚢腫ですが、これが一番、卵巣嚢腫のなかで頻度が高く、水のようなさらさらした液が袋の中にたまります。10代から30代の若い女性に最も多く見られます。
■チョコレートのう腫とは
また、ちょっと毛色が違うものに「チョコレートのう腫」というのがあります。これは、卵巣の中に子宮内膜症ができて、それが産生する月経血が子宮のなかにたまって袋状になったもので、ちょうどチョコレートのように見えるので、そのまま「チョレートのう腫」といいます。これは、原因が子宮内膜症とはっきりしているので厳密には卵巣のう腫に含まれないようですが、まあ、でもそういった定義はこの際あんまり気にしないことにしましょう。ただ、このチョコレートのう腫の場合、しつこいようですが原因が子宮内膜症なので、症状として、普通の卵巣のう腫に見られないようなひどい月経痛がでたりすることが多くなります。また、治療も少し普通の卵巣のう腫の治療とは違います。
卵巣嚢腫の症状・自分でわかるチェック法
症状が表れるのは、嚢腫がこぶし程に大きくなってからです。嚢腫が周囲の膀胱や尿管を圧迫すると頻尿を起こしたりしますし、また、腸が圧迫されれば便秘が起こります。月経時以外の腰痛、腹痛も起こることもあります。おなかがなんとなく膨らむ、不正出血がある、水っぽいおりものがある、という症状が出る人もいるようです。また、ある程度以上の大きさになる前でも、嚢腫が見つかった人に聞いてみると、人によっては、月経や排卵のときに「おなかがちくちくした」「腰痛があった」といった症状を感じていた場合もあるようです。
茎捻転といって、嚢腫の根元がねじれた場合は緊急事態です。かなりの激痛があり、吐き気、出血を伴い、感染を伴えば発熱します。場合によってはショックで意識不明になってしまうこともあります。しかも、放置しておくと卵巣に血が行かなくなり、腐ってしまうので、すぐに緊急手術になってしまいます。茎捻転は一応どのサイズの嚢腫でも起こりますが、やはり、ある程度以上の大きさ(5~7cm以上)になると起こりやすくなります。
卵巣嚢腫の検査法・診断法……内診、触診、エコー等
繰り返すようですが、かなり大きくならないとあまり症状がないので、妊娠検査やがん検診で偶然発見されることが多いです。卵巣嚢腫かどうかを調べるには、一般的には、内診、触診、エコーなどで卵巣腫瘍の大きさ、性状を診て、血液検査、場合によってはCT、MRIなどで腫瘍が良性か悪性かをみます。
どちらにしても初期段階での自覚症状が少ないので、早く見つけるには定期検診が一番。卵巣嚢腫は10代でも多くあるようですし、しかも悪性のこともありますので、日本でも海外のように、「生理のある年齢になったら定期検診」という習慣が早く根付くといいですね。
卵巣嚢腫の治療法……経過観察・手術摘出
嚢腫が小さいうちは経過観察が一般的。そして、増大傾向のあるものについては、手術摘出が基本となります。大きいものであれば、茎捻転の可能性を考慮してすぐに手術となることが多いように思います。手術には、開腹手術と腹腔鏡による手術とがあります。また、手術法には主に3つあって、病巣だけを摘出する「嚢腫核出術」、病巣のある卵巣を摘出する「卵巣摘出術」、卵管と卵巣をまとめて摘出する「附属器摘出術」です。その時々の状況によって術式は選ばれます。ちなみに卵巣は2つあるので、1つを摘出しても、残った卵巣が正常に働けば問題はありません。ただし、若いうちに卵巣を片方なくすことで閉経が早まることはあります。
卵巣嚢腫と診断された場合に医師に確認すべきこと
もしも卵巣嚢腫と診断されたら、状況を正しく理解した上で医師と治療方針を考えていくことが大切です。腫瘍の大きさと位置、手術の必要性、手術した場合には腫瘍以外にどれくらい卵巣を取るのか、またその場合は将来の妊娠にどの程度影響するのか……等を確認するようにしましょう。また、手術を受けた場合は、 摘出した腫瘍の名前、腫瘍の再発の可能性などを聞いておくのがよいでしょう。