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差し歯が取れた!「接着剤で応急処置」の怖いシナリオ

【歯科医が解説】差し歯が取れたけど、自分で強力接着剤でつけて応急処置としよう、と考えてしまう人がいるようです。自分で接着剤で補修すると、痛みだけではなく、歯の根が縦に割けるなどの怖いリスクも……。適切な直し方・治療法を解説します。

丸山 和弘

執筆者:丸山 和弘

歯科医 / 歯の健康ガイド

差し歯が取れた! 自分で接着剤でつけてはダメ?

前歯の差し歯が取れた

前歯の差し歯が突然取れてしまったら、見た目的にもとても気になるもの……。適切な対処法は?


<目次>
問題なく使っていた前歯の差し歯が、突然土台ごと抜けてしまうことがあります。前歯が抜けたままではみっともない……。そっと指で戻してみると、意外とピッタリと嵌って大丈夫そうに感じることもあるかもしれません。
 
差し歯と被せ物の違い
左が「被せ物」。自分の歯に白い色の被せ物を被せるだけ。右が「差し歯」。大きな虫歯で、左のような歯の形に出来ない時に神経を抜いた穴に柱を差し込んで土台を作り、さらに被せ物を被せている
「市販の接着剤でつけたらダメなのだろうか……?」と考えてしまう方もいるようですが、差し歯が取れてしまったら、すぐに歯科に行くしかありません。自分で治そうとしたり、接着剤でくっつけたりすることは、絶対にしてはいけないことだと思ってください。

接着剤がしっかりついてしまうと、治療が必要な場合に外すことが出来ないので治療が長引きます。そして、歯が使えなくなってしまうことになります。

なお今回解説するのは、神経を取った後の歯に金属の土台を差し込み、その土台に被せて作る「差し歯」のことです。単に歯に被せているものは「差し歯」ではなく「被せ物」といいます。

 

差し歯を自分で戻すと起こること

差し歯が取れた
差し歯は、神経を取った後の歯の根の部分の穴に土台が柱のように差し込まれている。取れてしまうと中の柱も一緒に抜けてくることがある
すぐまた取れる
取れた原因を治さずに戻しているため、当然ながらまた取れる可能性が高い

痛みが出たり、歯の根が裂けたりする
瞬間接着剤などでつけようとすると、しっかりと元の位置に戻せていない状態で固まってしまうことがあります。そうなると咬むと強くぶつかり、最悪の場合、歯の根が縦に裂け、差し歯の歯を抜くことになるリスクもあります。また、根の先の治療が必要な状態になっていた場合も、差し歯を勝手に戻すことで、咬むと痛みが出るようになります。

歯の周りの歯肉が腫れる
歯の根が割れて取れてしまった土台に差し歯を戻すと、割れ目から中に細菌が入っていき歯肉が腫れてしまうこともあります。

神経を抜いた後の穴の中に唾液が少しでもついていると、差し込んだ差し歯の柱の周囲の根の部分が虫歯になったり、唾液の中の細菌が根の中で繁殖して時間が経つと痛みの元になったりします。
 

差し歯が取れる原因……咬み合わせ・虫歯

差し歯が取れる前、取れた後
どんなに強力な接着剤を使用しても歯の根の部分が割れてしまえば差し歯は簡単にとれてしまう!
それまで問題なく使えていた差し歯が取れる理由として、主に下記のような原因が挙げられます。

差し歯の咬み合わせが、他の歯より強くぶつかっている
実は一番多い原因はこれです。ただ単に咬んだ時だけでなく、歯ぎしりなどで差し歯だけが強くぶつかり、毎日の衝撃の積み重ねで取れてしまうのです。その結果、次のようなことが起こります。

歯の根はダメージなく、セメントのみ破壊され差し歯が取れる
この場合は取れた中で、最も軽症です。差し歯の金属と歯は、セメント(歯科専用の接着剤)で取り付けてあります。少しの調整で元に戻せることもあります。

衝撃で歯の根が縦にひび割れて、差し歯が取れる
この場合は取れた中で最も重症です。歯の根にひびが入ると咬むたびにひびが拡がり、土台ごと差し歯が取れてしまいます。入ったひびは元に戻せないため、差し歯を元に戻すどころか、歯の根を抜くことになります。

咬み合わせが原因で差し歯が取れた場合、歯の根にダメージがあるかないかで、歯が残るか残らないかの分かれ目になります。

差し歯の周りが虫歯になったとき
この場合、虫歯の大きさで重症・軽症が分かれます。差し歯は歯科用セメントでついています。差し歯の周りが虫歯になると歯とセメントの間に隙間ができて取れてしまいます。
 

差し歯が取れたとき、重症度のセルフチェック

差し歯の土台
灰色の部分が差し歯の土台の金属。取れた差し歯の柱の長さが10ミリ以上ある時は歯の根がダメになっている可能性が高い
外れた差し歯を見ることで、外れた理由が重症か軽症かがある程度判断できます。チェックポイントは、外れた差し歯の柱部分の長さを調べることです。この長さが長ければ長い程、間違いなく重症です。長い柱を差し込んでいるということは、それだけ外れにくくなっているということです。

それがもし外れてしまったということは、例えば歯の根が縦に割れていて歯を抜かなければならないなど、何らかの大きな問題が起こっている可能性があります。大体10ミリ以上の長さがある場合には大きな問題が考えられます。
 

差し歯は普通では取れない。繰り返す場合は適切な治療か作り直しを

最近の差し歯は、一昔前には考えられないような強力なセメントでつけられています。しっかりとつけられた差し歯(被せ物)は歯医者さんでも外すことは大変です。それが自然に取れてしまったということは普通の状態ではない一大事と考えるべきでしょう。

結婚式やなどのやむを得ない行事で「外れた差し歯を、応急処置的に歯科でつけ直してもらったが、数カ月後にまた外れたので、またつけ直した」といったことを繰り返している場合も注意が必要。すでに歯の根の部分が割れてしまっている可能性があります。歯の根にダメージが全くない場合でも、外れた差し歯を戻すのは1~2回までとし、それ以上外れる場合は新しい差し歯を作り直すことをおすすめします。

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