安心して呆けられる国に


痴呆状態にあるすべての人と、痴呆になる可能性を持つ私たちすべてを「アリス」と名づけよう――。NPO法人「癒しの国のアリス21」がめざすのは、誰もが安心して呆けることのできる「癒しの国」です。現在、介護サービスの研修者養成活動や、サービス評価活動を推進中です。



「呆け老人、痴呆老人といった呼び方が知らず知らず健常者との間に壁を作ってはいないか」という疑問がそもそもの出発点だったと、顧問を務める高柳和江氏(日本医科大学助教授)は振り返ります。「そんなとき、3ヶ月間の痴呆状態から脱した、あるおばあちゃんの言葉にインスピレーションを受けたんです 。“まるで不思議の国のアリスのようだった――”。アリスと呼び変えることで、痴呆高齢者という言葉に隠された侮蔑や排他の感情をなくしてゆきたい。たかが名前、されど名前です」。


欧米に学ぶ癒しの環境
国際的に見ても、日本社会は障害者に対しとくに冷たいので、と高柳氏は指摘します。「北欧やアメリカの高齢者は美しく装い、いきいきとしています。お揃いのジャージを着せられ、全員で童謡を歌わされるわが国の一部老人ホーム入所者とは大違い。呆け老人という名で呼ばれたが最後、死ぬまで差別されてしまうんですよね」。


例えばアメリカで活発な「エデン運動」。高齢者の尊厳を重視し、癒しの環境を守ろうという理念を掲げた介護運動ですが、実践施設や本拠地を見学した高柳氏は日本の現状との格差に唖然としたといいます。


「それぞれクラフトやガーデニング、料理を楽しみ、ボランティアで訪れる子どもとおしゃべりしたり、遊んだり。犬や猫も施設内で飼われており、触れ合うことができます。もちろん、獣医師による検査済みで、専門スタッフによるケアも万全。入所者は痴呆状態の人も含め、精神的に非常に落ち着いているとのこと。説明によれば向精神薬による薬漬けなどは一切なく、環境による効果だとか。40分~1時間ごとにスタッフが声をかけ、排泄トラブルに対処しています」。


一番、衝撃的だったのは到着した視察団をお年寄り全員が笑顔いっぱいで出迎えてくれたこと。驚きつつもあいさつする高柳氏に一人の老人が囁いた言葉は、「アイムナットウェル。バット、アイラブユー(わしは調子はよくないが、あんたを愛しているよ)」。なんともチャーミングで、精神年齢の若々しさが推しはかられるエピソードです。