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海外旅行ではキスで感染する髄膜炎に注意!

イギリスでキスをする相手が多いと、髄膜炎菌性髄膜炎に罹りやすいという報告がありました。日本では稀な病気ですが、海外では事情が全く異なります。海外旅行に行った時は、キスには気をつけましょう。

西園寺 克

執筆者:西園寺 克

医師 / 感染症・健康情報ガイド

イギリスでキスをする相手が多いと、髄膜炎菌による髄膜炎に罹りやすいという報道がありました。髄膜炎自体は決して珍しい病気ではありません。21世紀の日本での髄膜炎の原因菌としては、肺炎を起こすインフルエンザ菌や肺炎球菌が主なものです。現在、日本では髄膜炎菌による髄膜炎は非常に稀な感染症です。ところが海外ではまったく事情が異なります。海外旅行に行った時は、キスに気をつけましょう。


髄膜って何?

皮膚・皮下・骨膜・頭蓋骨 緑色:硬膜 濃青:クモ膜 クモ膜下腔 灰色:軟膜 橙色:脳いきなり髄膜と言われても、ピンと来ないかもしれませんね。体のどの部分にあるのでしょうか?髄膜は脳と脊髄を覆っている硬膜・クモ膜・軟膜の総称です。

クモ膜と軟膜の間は、クモ膜下腔と呼んで血管が豊富な部分です。クモ膜下出血で知られているように、脳動脈瘤が破裂して血液が溜まるのがこの部分です。



髄膜炎はどんな病気なの?

初めは発熱、頭痛などの症状が起こり、嘔吐する事もあります。症状が進むと意識障害や痙攣発作が起こることもあります。

診断の際は、脳脊髄液という体液を顕微鏡を用いて見て、液中の白血球を数えたり、細菌を染めて確認します。さらに細菌培養検査を行って、原因菌の存在を確認する事になります。原因の微生物が、なかなか判明しない場合もあります。

細菌性の髄膜炎の治療には抗生物質が有効ですが、髄膜炎が治った時に後遺症が残ることもあります。


日本では珍しい髄膜炎菌

顕微鏡で見た髄膜炎菌です。細菌検査用のグラム染色法で染色すると赤く染まる球菌として見えます!髄膜炎自体は珍しい病気ではありません。例えば肺炎になった時に、呼吸器から血液中に菌が入ると、菌血症が起きます。さらに菌血症を起こした血液中から髄液中に菌が入ると、髄膜炎が発症します。日本では原因となる菌は、肺炎の原因となるインフルエンザ菌、肺炎球菌が大部分を占めています。

髄膜炎菌で問題となる点は、菌を持っていても発症しない保菌者がいる点です。保菌者の唾液中には菌が含まれています。そのためにキスで感染する可能性があるのです。また、髄膜炎菌性髄膜炎は院内感染の原因となる可能性もある菌です。

ただし、髄膜炎菌性髄膜炎は日本では非常に稀な感染症です。一部は海外からの持ち込みの可能性もありますが、毎年の報告は年間で10~20例程度しかありません。とは言えその半数は5歳未満ですので、小児科領域では忘れてはいけない重要な感染症です。


海外に多い髄膜炎菌性髄膜炎

日本では髄膜炎菌性髄膜炎患者の数は非常に少なくなっており、1年間での発症率は1人/1000万人(0.01人/10万人)程度の計算となります。

しかし、海外ではまったく事情が異なります。日本からの旅行者が多いアメリカでは1年間に3000人程度が発症しています。アメリカの人口を3億人とすると、1人/10万人の割合となり、これは日本の100倍の発症率にあたります。ヨーロッパの発症率も、アメリカとだいたい同じ程度と考えて下さい。キスの習慣が一般的な欧米を旅行する時は、軽いキスにしましょうね。

また、中央アフリカは髄膜炎ベルトと呼ばれています。この地域に日本からの旅行者はあまり多くはありませんが、なんと発症率は日本の1000倍以上、つまり1年間で1人/1万人(10人/10万人)以上の患者が報告されています。

予防にはワクチンが有効ですが、日本ではワクチンの入手が難しく、現状では接種が困難な状況です。これに対し、海外では髄膜炎菌のワクチンが備えられているのも大きな違いと言えるかもしれません。


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