最近、アスベストを巡る健康被害が話題になっています。職場であれば定期的に健康診断が行われているはずなのに、なぜ長年気づかれなかったのか不思議ですが、アスベストが原因とされる病気の一つ、悪性中皮腫の場合、発病までの潜伏期間が35年前後と長く、かつ、X線検査でも肺の中にどれくらいのアスベストが蓄積しているのかどうかは容易には判別できないものらしいです。
発病するのがすでに定年退職したあとだったり、特別な検査でも異常を検知できないなどの点から、これまでは半ば放置されたような状態になっていたわけですね。
ところで、職場における健康診断。会社には、人を採用したときと、年に1回の定期的な健康診断を実施する義務が課せられていることをご存じですか。中小、零細規模の企業の中には、この健康診断実施義務を怠ったり、一定年齢以上でかつ希望する人に限って、自治体などが実施する生活習慣病検診を受診させるなどの形で、お茶をにごしているケースも少なくないと聞きます。
会社の義務ですから、もし、職場で定期健康診断が実施されていない場合、社員は、会社に対して健康診断を実施するよう要求することができます。以下、労働安全衛生法に盛り込まれている内容を中心に、職場における健康診断について考えてみましょう。
会社に課せられている健康診断の種類
労働安全衛生法により、会社に実施義務が課せられている健康診断には、次の4種類があります。
(1)一般健康診断
(2)特殊健康診断
(3)歯科診断
(4)労働基準監督署長の指示による健康診断
(1)はさらに、雇い入れ時の健康診断と定期健康診断に分かれます。また、(1)以外は特別な事情がある場合や、有害業務従事者に対して実施すべきものですから、ごく一般の職場においては(1)が実施されることになります。
雇い入れ時の健康診断
会社は、「常時使用する労働者」を雇い入れたときには、健康診断を実施しなければなりません。
常時使用する労働者とは、いわゆる正社員、1年を超える雇用が見込まれる契約社員、1週間の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上であるアルバイトやパートタイマーなどを指します。この時点で行うべきとされている受診項目は次の通りです。
(1) 既往歴および業務歴の調査
(2) 自覚症状および他覚症状の有無の検査
(3) 身長、体重、視力および聴力の検査
(4) 胸部X線検査
(5) 血圧の測定
(6) 貧血検査
(7) 肝機能検査
(8) 血中脂質検査
(9) 血糖検査
(10) 尿検査
(11) 心電図検査
ファミリーレストラン、ファーストフードなどの飲食店で給食の業務に従事する労働者については、「検便」が追加されます。また、塩酸を扱う業務など特殊な職場にあっては、「歯科検診」が追加されることもあります。