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多党制でも政治は安定する?
二大政党制=政治安定、という理論に対する批判として生まれた「多極共存型民主主義」論。 |
レイプハルトの祖国オランダは、実はかなり「分断された国」です。まずカトリックとプロテスタント(カルヴァン派)という宗教対立。自由主義と社会民主主義というイデオロギー対立。
このようなサブカルチャー(下位文化)によってオランダは分断されているとレイプハルトは考えます。実際、このようなものをオランダでは「柱」と呼び、強固な系列組織化を進めていきました。
その結果オランダは、およそ1,600万人の人口にもかかわらず、9つの政党が議席を分け合い、第1党のキリスト教民主同盟すら下院で41議席、全議席150のうちわずか27.3%しかおさえていません(2007年2月現在)。
しかし、オランダの政治は安定しています。
これをレイプハルトは「それぞれの政治指導者たちが連合して統治に協力することを約束している」ためであり、また「それぞれのサブカルチャーに『拒否権』が事実上認められている」ためであると指摘しました。
このような、一見多極的ながら、実は安定しているという政治体制のことを、「多極共存型民主主義」といいます。レイプハルトは他にもベルギー(深刻な言語対立を抱える)、スイス(4カ国語の民族からなる)、オーストリア(社会主義と自由主義の対立)の政治も多極共存型民主主義の例としてあげています。
この考え方は、古典的な政治理論だった「二大政党制だと政治は安定する」という考え方へのアンチテーゼであったといえます。
政治的安定=二大政党制ではない?
二大政党制はどちらも結果的には同じ飲み物、という感じの共通了解がないと逆に安定しにくいともいわれる。 |
もし、オランダやベルギーに二大政党制を採用したらどうなるでしょうか。二大政党の枠に収まりきれなかった政治集団は議会外活動に専念せざるを得ず、政治の空洞化が懸念されます。下手をすると内乱です。
二大政党制がいいかどうか、というのは実際のところ、国民性にかかっているといっていいでしょう。
イギリスやアメリカは、「イギリス的なもの」「アメリカ的なもの」というのが非常にはっきりしています。アメリカがそうなのか、という人もいるかもしれませんが、アメリカは人種のるつぼといいながら、結局はアメリカの「自由・平等」の理念に賛同した人たちが集まって成長していった国ですから、「アメリカ的なもの」ははっきりしているわけですね。
黒人やネイティヴ・アメリカンは別ですが、彼らも今はこのアメリカの理念を支持しています。そうしてオバマ上院議員のような人が出てきたわけですね。
アメリカの二大政党はしばしば「ラベルの違う2つのコーラ」といわれたりします。こだわりの強い少数派は別にして、人々はその時々の気分でコカ・コーラやペプ氏・コーラを飲む。しかしどちらもコーラ。
共和党や民主党も、基本的には「アメリカ的なもの」から逸脱することはない。だからどちらが政権をとっても死活問題にはならない。こういう素地だからこそ、二大政党制が発展したと言えます。
日本も二大政党制になりつつあるといわれますが、自民党にも民主党にも、どちらに任せても大丈夫、と信頼されているのでしょうか? 二大政党制が根付くかどうかは、そういうところにかかっているといえます。
※参考書籍・サイト
『【縮刷版】政治学事典』 猪口孝ら/編 2004 弘文堂
『ヨーロッパ政治ハンドブック』馬場康雄・平島健司/編 2000 東京大学出版会