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「影の内閣(シャドー・キャビネット)」とは
イギリスでは、野党の幹部たちによる執行部のことを「影の内閣」といいます。これは、幹部たちが外務・財務・産業など特定の政策についての政策責任者となることから、そういわれています。つまりイギリス野党の執行部は、「影の首相」である党首を頂点に、幹部たちが「影の財務相」「影の外相」などに「就任」し、あたかも内閣であるように組織されているのです。
こうして、野党はいつでも政権を運営できるように準備しているものといわれています。
「影の内閣」の起源は、19世紀末から20世紀初頭にかけて、野党になった保守党の幹部たちが定期的に会合したものといわれています。現在では、二大政党の野党側は必ず「影の内閣」を組織します。
保守党の場合、影の内閣の閣僚たちの人選は党首に一任されています。一方、労働党の場合は、所属議員たちの選挙によって決められています。もっとも両党とも、「影の首相」に党首がつくことは同じです。
影の内閣は、内閣同様に定期的な会議を開き、党の政策や議会対策などを決定し、また次の総選挙に備えた活動方針を決定します。
イギリス議会の議場は、日本やアメリカのような扇型ではなく、議長を挟んで左に与党が、右に野党が座り、向かい合って議論をします。左右の議席の最前列に座るのが内閣と「影の内閣」の閣僚たちであり、彼らのことを「フロント・ベンチャー」といいます。
ちなみに、「バック・ベンチャー」という言葉もあります。後ろに座っている人たちのことで、新人議員であったり、日本語でいうところの「陣笠議員」であったりします。
また、保守党においては、政権獲得時には「影の内閣」の閣僚がそのまま正式な閣僚になることが多いのですが、労働党の「影の内閣」の閣僚は選挙で選ばれているため、党首とはそりが合わない人物も多く、政権獲得時に閣僚にならない人も結構いるようです。
党首に給料が支給されるイギリスの「影の内閣」
日本でも、かつての社会党や新進党、あるいは現在の民主党が「影の内閣」を組織しています(民主党は「次の内閣」といっています)。しかし、日本の野党が作った「影の内閣」の権限は弱いものがあります。存在を知らない人も多いでしょう。そもそも、執行部とは別に「影の内閣」を作っているところに、日本版「影の内閣」の弱さがあります。
その点、党の執行部として機能しているイギリスの「影の内閣」は、大きな意味を持っています。
そして、イギリスでは「影の内閣」の首相、つまり野党第1党の党首に国から俸給、つまり給料を支給しています。また、公用車の使用権も与えています。
イギリスでは国の制度として「影の内閣」が存在しているという側面もあるのですね。
ちなみに、ドイツでも一部の州で、こうした公の制度としての「影の内閣」制度を導入しようとしましたが、あまりうまくいっていません。
二大政党が前提のイギリスに対し、多党制のドイツは野党第一党といえども、他の野党との協力関係などもあり、おいそれと自分たちだけで「影の内閣」を作れないということがあります。
「影の内閣」というのはイギリスの政治文化に根ざしたもので、必ずしも他国がマネをしてうまくいくというものでもなさそうです。
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※参考書籍・サイト
『[新版]現代政治学小辞典』阿部斉・内田満・高柳先男/編 1999 有斐閣
『イギリスの政治 日本の政治』山口二郎 1998 ちくま新書
「英国の政治機構における与野党の建設的関係(2)」若松新 早稲田大学