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三位一体改革の基礎知識2008(3ページ目)

三位一体改革は次々に実行に移され、その成果や問題点も見えてきました。ここで、三位一体改革がどうなっているのか、三位一体改革の基礎知識から現状・課題・問題点などをわかりやすくまとめてみました。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【改めて、「三位一体改革」とその目指すところとは】
2ページ目 【三位一体改革が実行され、何がどう変わったのか】
3ページ目 【これからの三位一体改革、課題と問題点はなにか】

消費税をめぐる攻防と法人二税をめぐる対立

法人2税に関する論争
法人税改革は格差解消実現か、それとも都会からの搾取なのか。消費税改革の先送りにも批判は多い。
もっとも税源移譲に適しているのは消費税だという人もいます。消費税収入の地方格差が少ないことは知られています。

住民税だと過疎化した地方では高齢で低所得の人が多く、税収アップが期待できませんが、消費税の移譲であれば、低所得の人であっても消費はしなければ生きていけないわけで、どの地方でも安定した財源を得ることができるといわれています。

しかし、これには国、とくに財務省が反対をしています。徴税コストが高くなってしまうとか、制度の複雑さが理由とされていますが、本音として「安定財源を地方にこれ以上渡したくない(消費税5%のうち1%は地方消費税)」、という考えが背景にはあるようです。

そのため、浮上してきているのが「法人税」です。

ただ、法人税の不安定さはバブル崩壊後の不況ではっきりしました。赤字企業には課税できないからです。地方も「法人二税」といって、事業税と法人住民税を徴収していたので、不況まっただ中のとき税収はそうとう落ち込みました。

そして、法人二税の4分の1を大企業が集中する東京都が徴収しているように、法人税をただ移譲しただけでは、都市部と地方の格差が広がるだけではないかと懸念されています。

そこで、法人二税を再配分し、地方に渡すようにすればいい、というプランが持ち上がっています。これには賛否両論あり、現在の大きな論点の1つです。地方格差を埋めるという点では効果があると評価する人は多いですが、地方分権の流れからいって、東京という「地方」から搾取する税構造になることに疑問の声もあります。

地方の課税自主権の拡大と「増税」の選択

2000年制定の地方分権一括法により、地方の独自税である「法定外税」の創設が許可制から国などとの事前協議制になり、また目的税(東京都のホテル税のように、宿泊客など特定の人に課税する税)も設定できるようになりました。

これから地方自治体は、この制度を活用し、自らの地方にあった税を作り、財源の確保をすべきではないかという意見もあります。

しかし、これは同時に地方自治体が「増税」をできる、ということでもあります。環境対策としてのレジ袋税、放置自転車対策としての自転車税など、課税対象は結構あります。住民たちは、自分たちの財布をとるのか、自分たちが住む自治体の財政向上をとるのか、選択しなければなりません。

このことは、「第2次三位一体改革」以降、地方分権のためにもっと地方独自の税が創設しやすい制度になっていけば、ますます重要になってくるでしょう。福祉目的のため、ある市だけは消費税が倍になっている、ということも予想されてきます。

ちゃんとした理由で税金が作られ、きちんとそれが使われているか。地方分権、そして三位一体改革が進むにつれ、われわれは監視の目を国に対してだけでなく、自分が住んでいる自治体に対しても向けていく必要に迫られていくでしょう。

そういった意味で、必要なのが自立と「自律」、自治体の住民が自治体自らを律していくことというわけです。

道州制と「コミュニティー民主主義」

コミュニティー民主主義
地方が自律し、住民ニーズを身の丈にあった資金で実行していくためには、コミュニティーのレベルで住民と行政との直接対話が求められる。「住民自治」の徹底が必要。
地方分権と三位一体改革の終着として考えられているのが道州制(道州制についてはこちらの記事も参照してください)です。都道府県を再編し、地方の財政自立度を高めることがこの道州制によって期待されています。

ただ、道州制というのは中央政府をスリム化し、仕事の多くを地方におしつけようという国側の都合もある話です。地方に任せたから国は知らない、それは地方の自業自得、というのも道州制の側面です。もちろん、地方の裁量はさらに増すのですが。

大事なのは、住民の生活にかなり直結したことを、住民たちが参加して決めていくという「住民自治」の精神も向上させていかなくてはならないということです。自治体だけを強くするという「団体自治」の精神だけでは、真の分権とはいえません。

そこで必要になってくるのが「コミュニティー民主主義」という概念です。

つまり、その地域で必要なことは、まず自治会・町内会レベルから話し合われ、市町村がそれをまとめていくべきだという考えです。特に「平成の大合併」で市町村規模が大きくなった今、議会だけで住民の意思をまとめていくのは困難、ということからこのことはクローズアップされています。

1991年から自治会・町内会の法人化ができるようになり、多くの法人自治会・町内会が生まれていますが、これらの組織をさらに市町村がうまく活用し、住民ニーズを引き出し、また政策合意の軸にできるかどうか。すでに一部の自治体では、その試みが始まっているので(参照:長野県阿智村公式サイト)など、注目したいところです。

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◎関連インデックス 地方政治

「三位一体基礎知識2008」についての参考書籍・資料はこちらをごらんください。

▼こちらもご参照下さい。
大人のための教科書 政治の超基礎講座

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