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今週の政治用語解説は、「証人喚問」についてです。防衛省疑惑など、証人喚問についてのニュースが多かったこのごろ。ここで証人喚問についての基本的な知識をおさえておきたいと思います。
国政調査権の中心、証人喚問
国会の「伝家の宝刀」国政調査権と証人喚問。 |
日本国憲法第62条「両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。」
「証人の出頭及び証言」これが証人喚問ですね。さらに詳しい証人喚問の規定は、憲法制定にあわせて制定された「議院証言法」で定められています。
「議院証言法」の内容と移り変わり
たとえば、証人が(1)偽証した場合は懲役3ヶ月以上10年以下、(2)正当の理由のない出頭の拒否・証言の拒否などは1年以下の禁固または10万円以上の罰金が科せられることになっています。この議院証言法はいろんな問題から改正されています。それは、委員(国会議員)からつるし上げのような尋問がなされるようなことが多々あり、証人の人権問題が浮上したからです。そのため、戦後間もない時期を過ぎると、ロッキード事件の発覚までは、証人喚問がない時期も続きました。
その後、1988年に議院証言法が改正され、いくつかの点が改正されました。主なものでは以下の2点があります。
・補佐人制度 証人が、(通常は委員長の許可を得て)弁護士を補佐人として選任し、補佐人に証言についていちいち助言を求めることができる制度。
・尋問中の撮影制限 当初は禁止でした。1998年、委員長が承認の意見を聞いた上で、委員会にはかり、許可する制度になりました。そのため、現在でも事情によってはリクルート事件関連の証人喚問のように、音声・静止画のみの中継になることもありえます。
証人喚問の手続き~決議まで
証人喚問決定までの手続きにおいては、今までに積み上げられた国会内の慣例が尊重されている。 |
まず憲法に立ち返ってみると、「両議院は、」とあります。つまり、証人喚問など国政調査権はあくまで衆参の各議院に与えられたものです。そのため基本的には、各議院で独自に手続き~証人喚問実施が行われます。
基本的には各議院の委員会で証人喚問を行います。そのためまず証人喚問を行おうとする委員会において、証人の出頭を求める決議を行います。これに基づき、委員長から議長に対して証人出頭要求書が提出されることになっています。
もっとも、国会の慣例では証人喚問の実施は委員会理事の決定が必要となっています。委員会理事の決定は全会一致が原則となっています。そのため実際には、委員会で証人喚問決議をする前に、理事会で与野党がともに賛成して決定をし、その後委員会において全会一致で決議することが慣例となっています。
しかし、民主党は参議院において額賀財務大臣と守屋前防衛事務次官の証人喚問を野党単独で議決をするという「慣例破り」を行いました。これは難しい問題で、多数決主義にしないと参院での与野党逆転の意味がないということもあるのですが、結局共産党までも慣例にこだわったため、多数決による証人喚問決議は白紙になってしまいました。
証人喚問の手続き~実施まで
さて、議長が委員長から要求書を受け取ると、議長は議院運営委員会理事会にはかります。承認が得られると、議長は承認に対し証言を求める案件・出頭を求める日時・場所(普通は国会議事堂ですが)を記載した公文書を証人に直接あるいは郵送で届けることになっています。この公文書による通知は証人喚問の日の最低5日前となっています。ただし外国にいる人に対しては10日前です。証人には、国会法に基づいて旅費日当が支給されます。ただし国会議員など公務員に対しては支給されません。また入院・勾留などで出頭できない場合の議院外証言が行われることがあります(委員が出向いて尋問)。
そして証人喚問が始まる前、委員長は証人に対して刑事訴追を受け、または有罪判決を受けるおそれのある場合には、宣誓または証言を拒否することができること、正当な理由なく宣誓や証言を拒否した場合は刑事罰に処せされることを証人に通知します。
そのあと証人は、宣誓書を朗読させられ、それに署名捺印することになっています。その後、委員長による概括的な尋問のあと、各会派(政党)の委員の尋問が行われることになっています。
もっともこの尋問で新しいことが出ることは少なく、一種の「政治ショー」「パフォーマンス」になっているという指摘は絶えません。証人喚問のあり方についてはまだまだ議論の余地があるだろうと考えられています。
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★おすすめINDEX 「国会のしくみ」
※参考書籍・サイト
『衆議院 そのシステムとメカニズム』 向大野新治 2002 東信堂
『国会学入門 第2版』 大山礼子 2003 三省堂