知っているようで意外と知らないことが多い中国の政治。今回は、中国の政治制度を中心に、中国政治の基礎知識について解説したいと思います。
1ページ目 【中国政治の中心「全国人民代表大会(全人代)」】
2ページ目 【国家主席・国務院総理など中国政府の重要ポストと権限】
3ページ目 【中国共産党のシステムと民族自治区・特別行政区】
三権分立を否定する「民主集中制」
中国は立法・行政・司法権のすべてが全国人民代表大会(全人代)に集中している「民主集中制」を採用している。 |
民主集中制とは、全ての権力が人民に集まるという政治制度です。日本やアメリカのような三権分立は否定されています。人民の権力は分けることができない、権力はすべて全人民のものであるべきだ、ということです。
とはいえ、13億人の人口を抱える中国でほんとうに全人民が直接国家の政治に参加することは限りなく不可能です。そこで、憲法では「全国人民代表大会」(以下、「全人代」)が人民を代表して権力を行使し、人民がそれを監督する、という制度がとられています。
全人代は、国家主席・副主席の選出、国務院総理(首相)などの閣僚の任命、中央軍事委員会主席・最高人民法院長(最高裁長官に相当)・最高人民検察院検察長(検事総長に相当)の選出、など重要ポストの任命を行うほか、立法権、憲法の改正権を持っています。
中国共産党による「指導」
全人代が最高機関とはいえ、憲法が前文で規定しているとおり、中国では中国共産党が「指導政党」の地位にいます。共産党が全人代も含めて、国家機関を指導することが中国の「国是」なのです。たとえば全人代の代表選出選挙のときに共産党が「指導」を行い、事実上の立候補制限を行うことで、共産党の意向に沿った代表が選出されるようになっています(もちろん党員でない代表も多いのですが、あからさまに反共産党的な候補が立候補できる余地はありません)。
また、人民解放軍は共産党からの指導を受けることになっており、これは「国防法」によって明確に規定されています。もちろん、国家主席や首相など、あらゆる重要ポストは共産党員であることが不文律となっています。
そのため全人代は、共産党で決定したことをそのまま承認する、いわば「ハンコをおすだけ」の存在、「ラバースタンプ」だと揶揄されてきました。
しかし、ここ数年、この関係にも多少変化が見られ、全人代の自律性が増してきたことが指摘されています。このことは「政治情勢編」でお話していくことにしましょう。
全国人民代表大会の代表選出方法
中国では全人代を頂点に多くのクラスの人民代表大会があり、下位クラスの大会で上位クラスの代表を選出する構造になっている。 |
そのうち全人代の代表を選出することができるクラスは、省・自治区・直轄市(北京、天津・重慶・上海)・特別行政区(香港・マカオ)となっています。また、軍も代表を選出することができます。
具体的には、省などクラスの人民代表大会が、全人代の代表を選ぶ形になっています。このクラスの下にはさらに地区などクラス、県などクラスの人民代表大会があり、それぞれ上のクラスの代表大会の代表を選出します。
有権者が直接代表を選出するのは、一番下のクラス、郷・鎮などクラスの代表大会の代表のみとなっています。全人代も含め、各クラスの人民代表大会の代表の任期は5年となっています。
最高機関のなかの最高機関、全人代常務委員会
もっとも全人代は年1回、2週間程度しか開催されません。そのかわり全人代によって選ばれた委員からなる常務委員会が常設され、閉会中は常務委員会が全人代に代わって権限を行使します。立法権などを完全に掌握しているわけですから、常務委員会は中国にとって重要な機関の1つとなります。もっとも常務委員長は常に共産党幹部=政治局委員が選ばれており、委員長や他の党員委員を通して、共産党の指導のもとその権限は行使されています。
現在の常務委員長は呉邦国(ご・ほうこく、Wu Bangguo)です。共産党最高幹部である政治局常務委員でもあります。
次ページでは国家主席や首相の地位と権限についてみていきましょう。