2ページ目 【「アラバマのパラドックス」とドループ方式】
3ページ目 【日本で実施のドント方式と修正サンラグ方式】
「アラバマのパラドックス」
どのような「パラドックス」なのでしょうか。ためしに、先ほどの2003年衆院選北海道ブロックでのシミュレーションを、定数を1減らした「定数7」で行ってみましょう。定数を1議席減らしてヘア-方式・最大剰余法。そうすると疑問の残る結果となってしまうことに。 |
そうすると、共産党の議席は残るのに、共産党の6倍近い得票をしている自民党の議席が「定数8」のときから、1つなくなってしまいます。これはいったいどういうことでしょうか。どう説明すればいいのでしょうか。
これが「アラバマのパラドックス」(最初にアラバマ州選挙で発見されたから)といわれるもので、ヘアー式だと、定数が減ることによってこんなおかしなことが、往々にして起こってしまうのです。
そのため、ヘアー式をそのまま利用している国はいません。
例えばベルギーでは、まず最初にヘアー基数を使って議席を配分しますが、余った議席の配分はドント式で行います。ドント式についての詳細は次ページでお話していきますが、結果は下記のようになり、ヘアー式のパラドックスが修正されています。
ヘアー方式でまず配分し、余った議席をドント式で配分する。こうすると上図とは違い得票数に割と比例した配分になる。 |
1議席獲得するための十分条件をもとにした「ドループ方式」
ヘアーの友人だったドループという人は、「どれだけの票を集めれば1議席獲得のための十分条件となるだろう?」と考えました。たとえば議席1について争う場合、1議席獲得に十分な票数の割合は2分の1超です。議席2の場合は3分の1超、議席3の場合は4分の1超。ということは、x議席獲得のための十分条件は[投票総数]÷[議席数+1]+1となります(小数点は四捨五入などする)。これがドループ基数です。
このドループ基数を使った方法が「ドループ方式」です。実際に、前ページと同じく2003年衆院選北海道ブロックでシミュレーションしてみましょう。
ドループ方式と最大剰余法。ちなみにこの場合のドループ基数は782,902。 |
ドループ方式を補完する「ハ-ゲン・ビショップ方式」
しかし、ドループ法も、ヘアー法と同じく、余った数が出てしまうわけで、これを同じように処理してしまえばヘア-法同様「パラドックス」が生じてしまいます。そこで、ハーゲンバッハ・ビショップという学者はこう考えました。もし、余った議席を配分せず、ある党がもう1議席獲得できていたらどうなるだろう、と。
その数は、あと1議席を何票で手に入れられるかという数になるわけです。その数が多い方が、民意をより反映しているのだから、そのぶん政党に配分すべきではないかと。
具体的には次のように計算します。これが「ハ-ゲン・ビショップ方式」というもので、スイスなどで採用されています。
ドループ方式で埋まらなかった1議席を、[各政党の獲得票数]÷[各政党の獲得議席数+1(,2,3,4……)]で割っていき、最大の数を出した政党に1議席。さらに1議席足りない場合は2番目の数を持っている政党に1議席分配される。 |
で、実はこれ、日本など多くの国が採用しているドント方式と、全く変わらないのですね。実際この配分結果も、2003年の衆院選結果と変わらないものになっています。
しかしドント式は、ちょっと考え方が違うのです。それを次から見ていきましょう。
一票を競り落とす方式が「ドント方式」
ドント方式は、基本的に「せり」です。たとえばA党は7000票、B党は3000票、C党は2000票を持っています。ここでは票が通貨です。そしてせり主が1議席を売りに出すとします。
この場合、A党が「1議席7000票で買った!」といえば、せりは終了です。
では2議席の場合は? A党が「2議席7000票で買った!」これでせりは終了。
3議席の場合はどうでしょう。 A党が「3議席7000票で買った!」といっても、B党が「1議席だけ3000票で買った!」と言えば、B党は1議席買うことができます。A党は1議席単価7000÷3=2333円で買おうと言うのですから、競り主としてはそれより700円ほど高く1議席B党に売りたいと思うでしょう。
競り主は結果2議席を7000票、1議席を3000票、あわせて10000票で売ることができます。競り主は主権者=国民なわけで、より多くの票が売買されることは、より多くの民意を反映できることを示します。
4議席の場合は? A党が一括7000票で買おうとしても、単価は1750票。B党は単価3000票、C党は2000票で買うことができますから、B、C党がそれぞれ1議席競り落とすことができます。競り主も、A党に7000票で売るよりは、7000+3000+2000=12000票の売上をあげることができます。
こうして競り合いをしながら、より多くの民意を反映しようというのがドント式のイメージなのです。
次ページでは、具体的なドント式の算出方法、そして北欧諸国で主流の別方式もみていきましょう。