2ページ目 【借款から「人への援助」へ、変わりつつある日本のODA】
3ページ目 【始まっているODA改革、そしてこれからの日本ODA】
【始まっているODA改革、そしてこれからの日本ODA】
アジア中心主義から「国益重視」へ
日本の国益と援助の両立、これがこれからのODA政策の課題になる。 |
従来までの日本のODAは、アジアが援助の中心でした。二国間援助においては、アジア向けが43%、中東が17%、アフリカが11%などとなっています(2004年)。
アジア向けODAが多いのは、もちろん日本がアジアの一員だということもありますが、最初のページでも述べたように、日本のODAが戦後賠償から始まったということもひとつの原因となっています。
しかし2003年のODA大綱改定によって、近隣地域であるアジアを重視しながらも、今まで以上に他の地域も援助対象に含めつつ、日本の「国益」を重視した援助をもっと増やしていこうというのが、「新・ODA大綱」に基づく現在の援助方針となっています。
そのため、たとえば経済発展著しい中国への援助はここ数年で半分ほどに削減されていますが、今後は援助からの「卒業」をめざしていきます。その一方で、潜在的な開発力があり、日本との貿易関係の増加も期待できるヴェトナム、日本の海運にとって重要なマラッカ海峡周辺へのODAなどは増加されていくことになっています。
国益でいえば、鉄鉱や金属など多くの資源が眠るアフリカへの援助増額も必要とされるところです。しかし、ODA予算の減額で、むしろ減少しています。
たとえば日本が最大の援助供与国となっていたアフリカ諸国の数は、2000年には7ヵ国ありましたが、2004年には0ヵ国になってしまっています。
金属資源が少なくなり、価格が高騰するなか、そういった資源を抱える国々への援助を少なくすることがどういうことになるのか、われわれはよく考えるべきかもしれません。
「新JICA」の創設
新JICAの創設によって、機動性に富み、効率性の高い援助の実現が期待されている。 |
その原因は、特にODAの実施機関が分散していたことにもありました。今までは、技術協力についてはJICAが行ってきましたが、円借款については国際協力銀行が、無償援助については外務省が、それぞれ中心になってきていたので、援助する計画や事業に重複が生じたり、あるいは関係各所間の連携や調整が不十分である、などといわれてきました。
そこで、2008年からJICAを「新JICA」とし、円借款・無償援助・技術協力の実施をすべてJICAに一元化することになっています。
また、援助政策の企画や立案についても、内閣に新たに設置された「海外経済協力会議」において審議された戦略に従い、「オールジャパンの観点からよりメリハリの利いた援助」(外務省)を目指すとしています。
これらの制度改正によって、政府=JICAを軸に3つの手段を組み合わせ、今までよりも機動的で、かつ効率的な援助が実行できるようになることが期待されています。
特にJICAは技術支援など「人の支援」のために世界中に展開されていて、各国の現状をよく把握している政府機関です。このJICAが、今お話したように、これからのODA実施を一元的に行うことで、より開発途上国やその国民のニーズにあった、きめ細かい援助の実施が期待できます。「感謝されるODA」を作り上げるうえでは重要な改革だったといえるでしょう。
どうなる中国ODAのゆくえ
日本ODAでよく批判されるのが、中国ODAのありかたです。「巨額のODAをしているのに、感謝されるどころか、反日運動が起きているではないか」というものです。先ほどもお話したように、経済発展にともない、中国へのODAは年々減少しています。特に円借款は半分ほどに削減されています。
そして2008年の北京五輪までに円借款の供与をやめる、つまり中国を円借款援助国から「卒業」させることが、両国の共通了解となっています。
問題は、環境問題に対する援助の扱いということになるでしょう。最近、中国から黄砂が大量に飛散して問題になりましたが、これは中国の砂漠化が原因しています。他にも、中国の環境悪化が、日本にさまざまな影響をもたらしていくと考えられます。
中国の環境問題に対しては、日本のODAの役割はまだまだ必要でしょう。われわれにも返ってくる問題です。もっとも、お金だけ出して軍備力強化をされても困ります。「お金は出すが口も出す」つまり援助もするが情報公開などの透明性、計画への参加も求めることが必要となるでしょう。
◎関連インデックス 「政府開発援助(ODA)」
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