国際的な貧困はますます拡大し、環境破壊も深刻化するなか、先進各国でODA(政府開発援助)をこれまで以上に拡大していこうという動きが活発になっています。しかし、日本だけは縮小の方向に……このような状況のODAについて、基礎知識をしっかりとつけていきましょう。まずは前編です。
1ページ目 【なぜODAという「公的資金援助」が必要なのか】
2ページ目 【開発中心の援助から「人間の安全保障」へ】
3ページ目 【世界のODA体制と、現在のODAをめぐる情勢】
【なぜODAという「公的資金援助」が必要なのか】
ODAがもつ3つの側面
ODAは単に途上国にのみ利益をもたらすものだけでなく、まわりまわって援助した国にも利益をもたらすものだということを頭に入れておきたい |
なぜ、われわれは募金やボランティアだけのような自発的な援助だけでなく、税金を源とした「公的資金を使った援助」をしなければならないのでしょう。
ODAの本質を知るためには、まずこの「なぜ援助をしなければならないのか」を知ることが重要です。
そのような観点から、まず前編では主に、ODAが持つ3つの側面、つまり
(1)戦略的援助
(2)インフラ開発援助
(3)「人間の安全保障」的援助
の解説をそれぞれしていきながら、「援助はやがてわれわれの利益にもつながっていく」ということについてお話していきたいと思います。
戦略的援助としてのODA
アメリカによる大規模な復興計画・マーシャルプランのポスター(写真:アメリカ国務省サイト) |
第2次世界大戦が終わってから間もなく、米ソ冷戦が始まります。そんななか、アメリカは広がっていく共産主義勢力に対抗するため、「封じ込め政策」を実施します。その政策の主要なものが、今日でいうODAだったのです。
つまり、戦争で荒廃してしまった国々の復興をアメリカによる巨額の資金援助で強力に支援することで、これらの国々を経済的に自立させ、共産主義勢力が入り込む余地をなくそうとしたのでした。
こうしてアメリカはODAという手段を通じて、非軍事的に西ヨーロッパや日本を「敵の手」から守り、アメリカ陣営にとどめておくことに成功したのでした。まさにアメリカの国益にかなった、戦略的援助型ODAだったといえます。
今でもアメリカはODAの外交的な「戦略性」を重視していると考えられています。米ソ冷戦時代、アフリカ援助を行ったのもソ連勢力にアフリカを奪われないためだったといわれていますし、いわゆる「9.11」後、中東や中央アジアの親米国に多額の援助を行っています。
戦略的援助型ODAは、援助すること、そしてその額のみがもっぱら重視され、援助の「質」は軽視しているとして、しばしば批判されることがあります。
しかし、ODAという「非軍事型」の外交により自国の国益を追求できる、ということは、とりわけ軍事手段をほとんど行使できない日本にとって学ぶべき点が多いともいわれています。
なぜインフラ開発援助型ODAが必要なのか
植民地支配が長く続いた開発途上国には開発のための資本が決定的に不足している。それを補うのがODAの役割。 |
このように、開発途上国の開発を助け、経済発展を支えることを主な目的として行われるODAを、ここでは「インフラ開発援助型ODA」ということにします。
ここで、なぜ開発途上国はODAを受けなければ、インフラを整備し、開発や発展をしていくことができないのだろうかという疑問を持つ人がいるかもしれません。
その理由は、開発途上国では先進国に比べ、開発のために必要な「投資資本」が不足しているから、という点にあります。
貯蓄率が高く、そのために銀行などから投資資本が企業にふんだんに流れ、高度成長が迎えられたといわれる日本でさえ、1950年代には先進各国から多くのODAを受けいれて、社会資本整備を行っていました。東海道新幹線は、ODA資金によって作られた大規模インフラの代表例です。
日本でさえODAが必要だったのですから、日本と異なり植民地支配などを受けてきたため、極端に投資資本が欠乏している開発途上国が発展していくためには、それ相応の資本をどこかが援助していかなくてはならないのです。
そのための援助は民間レベルだけでは難しいものがあります。政府の公的資金を使い、巨額の資金援助をしなければならないのです。
では、今度はなぜ「先進国が」開発途上国の開発資金を援助しなければならないのか、次ページでお話していきましょう。