文章:石原 敬子(All About「よくわかる経済」旧ガイド)
個人投資家向けに社債の発行が増加しています。しかし、実は人気の背景にあるのは「金融不安」。債券だからといって、安心は禁物です。債券投資のチェックポイントをお伝えしましょう。<INDEX>
債券とは? 社債とは?(1P目)
金融不安になると、個人向け社債がブームに(1P目)
人気とはいえ要注意「劣後債」(2P目)
債券投資のチェックポイント:信用性(3P目)
債券投資のチェックポイント:資金の利用目的(3P目)
債券とは? 社債とは?
「社債の発行」とは「社債を発行して投資家から資金を借り、その投資家に発行した債券を保有してもらう」ということ |
株式を買うのは「出資」で、原則として株式発行会社から出資金を返してもらうことはありません。この点が、債券と株式の大きな違いです。個人投資家向けの社債ということは、会社が個人投資家から資金を集める借金のことです。債券という借金の証拠になる証書は、現在は電子帳簿上で管理されており、紙でできた“証書”ではなくなっています。
借りたお金は、通常、いつか返済する必要があり、債券には「償還日」が設けられています。ソフトバンクにお金を貸した投資家(=ソフトバンク社債を購入した投資家)は、償還日に元本を返してもらえるというわけです。借金ですから利子が発生します。あらかじめ決められた日に、ほとんどの場合で年に2回、半年分の利子を債券発行体が投資家に支払います。
万が一、社債発行会社が元本を返済できない、利子を支払えない、となった場合はどうなるでしょうか。通常、このような状況になると「事実上の倒産」などといわれます。
社債発行会社が「事実上の倒産」をした場合、その会社が持つ資産から負債を返済し、残った資産があれば株主に分配します。債券の投資家は、株式の投資家より返済を受ける優先順位が上位です。
債券の中途換金はほとんどの場合で可能です。債券の売却は時価です。債券の時価は、その時の市場金利と発行体の信用性で決まります。市場金利が高い時期であれば債券価格が低く、低金利時であれば高く評価されます。発行体の信用性が劣ると債券価格は下落、信用性が高まれば債券価格は上昇します。
上場債券であれ、非上場の債券であれ、この2つの要素が中途換金時の受渡金額に影響することを覚えておくとよいでしょう。
金融不安になると、個人向け社債がブームに
2008年後半から個人向け社債の発行が増えています。2008年の社債発行額は、暦年で1兆3338億円と過去最高額。2008年度の発行額としても、過去2番目の高水準です。過去に個人向け社債が多く発行された時期は、世の中を金融不安が取り巻いていた時なのです。それには理由があります。金融市場の混乱期は、「貸し渋り」という言葉がよく聞かれるように、金融機関がお金を貸すことに慎重になっている時期。貸した資金が確実に返済されるかどうかが不安視される時期です。
社債発行も同様で、ある会社が社債を発行して資金を借りようとしても、金融機関をはじめとした機関投資家は、二の足を踏みがちです。資金調達をしたい会社は、何とかお金を出してくれる投資家の出現を望みます。そこで、個人投資家を対象にした社債の発行計画が浮上するのです。
一般的に、金融不安の時期には金利水準が低いものです。預金や国債よりも相対的に利回りの高い社債が発行されるとなれば、投資先選びに困っている個人投資家には、もってこいの運用先となるわけです。
2009年1月-3月は、メガバンクによる個人向け社債の大型発行が話題に上りました。三菱東京UFJ銀行で4500億円、みずほコーポレート銀行で1230億円、三井住友銀行で1300億円。一般事業会社では100億・200億円規模が通常で、大型起債の例でNTTドコモの600億円が目立つぐらいです。金融機関が、いかに資金調達に苦慮していたかがわかります。
このように、発行する側である企業の思惑と、効率的な資産運用をしたい個人投資家の思惑が一致して、金融市場の混乱期に個人向け社債の発行額が増加する傾向となるのです。
4月以降も引き続き個人向け社債の発行は活発です。6月に発行予定と報じられた一例としては、ソフトバンク、三菱UFJ信託銀行などがあります。
社債の中でも、昨年後半から「劣後債」の発行が急増しています。「劣後債」とは? 次のページで解説しましょう。