2ページ目 【冷戦時代が終わって注目される「不安定の弧」とは?】
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【冷戦時代が終わって注目される「不安定の弧」とは?】
「冷戦の壁」からの米軍撤退
従来のアメリカ軍の世界における配置は、冷戦に対応したものでした。冷戦の最前線、つまり西ヨーロッパや韓国、日本などに軍を配置し、ソ連など共産勢力に備えようとするものでした。しかし、冷戦が終わった今となっては、冷戦の「壁」であった地域に大きな兵力、特に人が多い陸上兵力を置く必要性が薄くなりました。
特に旧東欧諸国がEUやNATO(北大西洋条約機構、アメリカ・西欧の軍事機構)に加入するようになったなか、ヨーロッパに大きな兵力を置いておくことに意味がなくなってきたのはいうまでもありません。
また、アメリカは韓国の米軍も削減しようとしています。
貧困にあえぐ北朝鮮が、もはや朝鮮戦争の時のように大規模な兵力を南下させることはないだろうとアメリカは考えています。北朝鮮が行う軍事行動は、生物・化学兵器の使用によるテロ的なものか、ミサイル攻撃であろうと考えられています。
また、冷戦が終わったいま、第2次朝鮮戦争が始まったとしても北朝鮮を直接支援する国は皆無でしょう。
このようなことから、アメリカは韓国に大規模な兵力を置く必要性もないと考えているのです。
「不安定の弧」への対応
冷戦は終わった今、アメリカ軍は冷戦対応型軍隊から、テロの温床となっている「不安定の弧」への対応軍へと移行しようとしている |
アメリカは、これらの地域を「不安定の弧」と呼び、この地域における国際テロの封じ込め・せん滅を新たな課題と考えるようになりました。
国際テロに対して重要なのは、大きな兵力よりも、効果的な兵器と、兵力展開の迅速さです。そこで、アメリカは海外に展開している大規模兵力を小規模な「ストライカー旅団」に転換しようとしています。
ストライカー旅団とは、大型輸送機に搭載可能な装甲車を中心とした陸上部隊のことです。すでにアメリカ本土に多く設置されています。
ストライカー旅団は、従来の戦車を中心とした陸上部隊と違い、遠くにいても輸送機ですぐ「現地」に向かうことができます。この「機動性」に加え、ストライカー旅団に特殊作戦能力の技術を兼ね備えさせることにより、より迅速な行動と効果的な攻撃を行おうとしています。
アメリカは、「9・11」のあと、本土防衛を重視し、陸上部隊の多くをアメリカ本土に引き上げようとしています。しかし、代わりに「質」の面で向上した陸上部隊、ストライカ-旅団を海外に置き、アメリカに挑戦する国際テロに対応しようとしているのです。
対称型の戦いから「非対称型」の戦いへ
アメリカ軍は非対称型の戦いに備えるため特殊攻撃部隊の養成にも力を入れている。沖縄にいる海兵隊の役割も増大しつつあるといえる |
しかし、現代型軍隊であるアメリカ軍の敵が、近代兵器を備えた正規軍から、そうではなく自爆テロやその他の手段で襲いかかるテロリスト・ゲリラなどへと移ってくるに従い、この想定を見直さざるを得なくなりました。
「非対称型の戦い」とは、このような、一方は近代兵器を使うものの、一方は自爆テロやその他のゲリラ的戦法を使って戦われる戦争のことをいいます。イラク戦争で勝利したはずのアメリカは、占領をはじめたとたん、このテロ攻撃という非対称型の攻撃になかなか対応できず、多くの犠牲者を出しているわけです。
非対称型の戦いでは、往々にして敵は兵器よりも人的資源そのものを利用しようとします。その究極のものが自爆テロです。神出鬼没なこのテロ攻撃を、RMA化された軍隊で対処しようとしても、なかなか難しいものがあります。
そのためアメリカは、一方でハイテク化などのRMAを進めながら、一方でテロやゲリラに対応するための「人的資源」の養成を余念なく進めています。沖縄にいる海兵隊は、一般の陸上戦力と違い、このような特殊訓練を受けている精鋭部隊として構成されているもので、イラク戦争にも送り込まれました。
RMAでは、この海兵隊などの精鋭部隊も「デジタル化」し、指令部とネットワークで直接結んで情報をやりとりし、より正確で効果的な攻撃ができるよう目指しています。
将来的には、一般的な陸上部隊はアメリカの本土防衛のために使用され、テロやゲリラとの戦いのための陸上部隊として、海兵隊やその他の特殊部隊が使用されるようになると思われます。
さて、ここまででアメリカ軍が再編=トランスフォーメーションで何の変化に対応させ、どのように変化させようとしているのかを見てきました。次ページでは、具体的なアメリカ軍の再編計画について解説していきましょう。