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懲罰って?国会の「議院自律権」基礎知識(3ページ目)

赤じゅうたんを踏む国民の代表・国会議員。その威厳を保つために、国会議員や各議院には自分たちを律することが必要になります。国会議員の懲罰は、その一環として行われる行為なのです。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【民主議会に必要な自律権、それを確保するための権利としての懲罰権】
2ページ目 【日本の国会はどういうふうに国会議員に懲罰を与えるのか、その種類は?】
3ページ目 【たとえどんな懲罰が下っても、国会議員は裁判所に訴訟を起こせないのか?】

【たとえどんな懲罰が下っても、国会議員は裁判所に訴訟を起こせないのか?】

懲罰決議がいいか悪いか、裁判所は判断できない

国会
議院の決議は重い。民主的などこの国の議会でも、議会や議院で決められたことに他の機関が意を挟むことはほとんどできない。できるとしたら裁判所による違憲審査か、国民による選挙によってだけだろう
国会議員への懲罰決議がいいか悪いか。それが裁判で求められたことはありませんが、憲法学者の大半は「司法権が議院自律権に介入することはできない」ため、議院自律権の発動である懲罰については裁判の対象にならない、と考えています。

最初のページで行をとって説明したとおり、議院自律権というのは国民の代表である議院がどこからも干渉されないための大事な権利であって、この是非を審査する権限のある機関は、どこにもないということです。

他の国ではどうでしょう。

イギリスは、そもそも最高裁判所にあたる最高法院が上院のなかにおかれています。そのため、上院の一部である最高法院が懲罰された下院議員を救済することは、そのまま、下院の議院自律権を侵すことになり、不可能です。

フランスでは、最高裁判所にあたる破毀(はき)院が、権力分立を侵害するため議会の内部事項についてのことがらは裁判権にあたらないことを判決で示しています。

アメリカは慣習的に議院自律権が大きく認められている国で、議員除名がたとえ「専断的、不公平であっても」裁判審査の対象にならないという言葉があり、定着しています。

議長の議院警察権も重要な議院自律権のひとつ

さて、国会議員が刑事・民事的に免責される場所は、憲法で規定している「演説・討論または表決」に限定されないと考えられています。国会議員の単なる意見表明なども論議に必要であれば免責されると考えられます。

しかし、秩序を維持するため、議長に議院警察権が与えられ、もし必要な場合は暴力をふるったりあるいは同等の行為を行う議員の身柄を警察官に引き渡すことができます(国会法第114条、第118条)。

これも、議院を警察などの権力から守るため、議院の長である議長に与えられた、議院自律権の1つといえます。

ですから、「何をやっても刑事処分が下らない」わけではありません。暴力行為などによる議事の妨害は、議長の警察権の行使によって、刑事罰の対象になりうるのですね。

また、議長が混乱収拾にあたらせた衛視に対して暴力行為を行って公務執行妨害罪として議院の了承なく一方的に起訴されたことがありましたが(いわゆる国会乱闘事件、第1次・2次がある)、裁判所はこのような具体的暴力行為を裁くことは議院自律権の精神にあたらず、刑事罰の対象となることと判断しています。

地方議会の自律権はあるのか

さて、地方公共団体の議会には、自律権は認められるのでしょうか。

懲罰として出席停止処分が下されたある村議会議員が、その正当性をめぐっておこした裁判で、最高裁判所は地方議会の自律権を認め、懲罰は司法審査の対象外になると判断しました。ただし、除名については、判断の対象になることを示唆した判決でもありました。

結局、自律権というものは民主政治を行ううえでは、国会以外の議会においても認められるべき(規則があるなしにかかわらず)ものであるということが確定したわけで、学説もその多くがこれを支持しています。

「議員資格」を調べるのは各議院だけに与えられた権限

赤じゅうたん
国会の赤じゅうたんを踏むものには、特権と、それに見合う責任が与えられている。その国会議員を選ぶ有権者も大切に票を投じたいものだ
議院自律権として憲法で定められているものとしては、他にも「議員資格裁判権」があります。

日本国憲法 第55条
両議院は各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。


この議員、本当に日本国籍? など、まあ、まずない話ですが(でもこれからの国際化社会、ないとはいえませんよね)、そんなことを審理する裁判が資格裁判です。

憲法第76条2項では通常裁判所以外の特別裁判所の設置を禁止していますが、これは議院自律のため憲法が特に定めた裁判であり、不正のあった裁判官を辞めさせる弾劾裁判同様、特別裁判所禁止の例外とされています。

そのため、この裁判に不服があっても、通常裁判所に訴えることはできないと考えられています。

ちなみに、この議員資格裁判については、衆議院は懲罰委員会で、参議院はそのとき設置される特別委員会で審理される、と規定が分かれています(衆議院規則第92条、参議院規則193条の2)。「議院自律の原理」ですから、分かれていても当然、問題はないわけですね。

それにしても、国会というのは実に奥が深く、国会議員や議院には多くの権利が与えられることをみてきました。国会議員を決める一票については、これまで以上に慎重に投じたいものですね。

「国会議員の懲罰と「議院自律権」」についての参考書籍・資料はこちらをごらんください。

▼こちらもご参照下さい。
大人のための教科書 政治の超基礎講座

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