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証人喚問・国政調査権の基礎知識

国会の「伝家の宝刀」などといわれながら、いつも運用がうまくいかない「国政調査権」。国政調査権の歴史から、現状、そしてこれからについてわかりやすく解説していきます。

執筆者:辻 雅之

(2006.03.06)

大人のための政治基礎講座、今回は国会が持つ権限のなかでもとりわけ大きな権限、証人喚問などを中心とした「国政調査権」についてです。よく耳にする言葉ですが、いまひとつよくわからないこの権限について、基礎知識を頭に入れておきましょう。

1ページ目 【国政調査権の発祥・イギリスとアメリカの歴史をひもとく】
2ページ目 【議院証言法をみて日本の国政調査権について知ってみよう】
3ページ目 【どうすれば国会の国政調査権をもっと意味あるものにできるのか?】

【国政調査権の発祥・イギリスとアメリカの歴史をひもとく】

国政調査権と日本国憲法

国政調査権
国政調査権は正確には「国会」の権限ではなく、片方の議院だけで行使できる権限。二院制の1つのメリットか。
日本国憲法には、このような規定があります。

第62条 両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。

この規定によって、衆参各議院に与えられた権限のことを、通常「国政調査権」といっています。

ここでいう「国政」とは、法律を作るために必要なことがら、だけでなく、財政のこと、政治倫理ほか、その他行政権の行為全般についてのことを指すと考えられています。

つまり、日本国民の唯一の代表である国会だからこそ認められている、「国の行為一般」についての幅広い調査権限、それが国政調査権というもの、というわけです。

そして、それをさらに実効力のあるものとするため、憲法では調査のほか、「証人の出頭及び証言(いわゆる証人喚問)」や、「記録の提出」を要求する権限を国会に持たせているわけです。

ちなみに、よく「『国会』の国政調査権」といいますが、これは本当は正確な表現ではありません。憲法62条の出だしに「両議院は」とあるように、これは国会全体の権限ではなく、衆議院・参議院それぞれに与えられた権限です。

そのため、衆議院だけ、参議院だけでも国政調査権の権限を行使することができます。衆議院の与党が参議院では過半数をとれていなければ、参議院が国政調査権の発動をするかどうかは野党に決定権があるわけで、二院制のひとつのメリットといえるかもしれません。

なお、具体的に国政調査権を発動し調査をしたり証人喚問などを行うのは各議院の委員会となります。ただし、衆参両院で構成された「合同審査会」でそれを行うことも可能です。

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国政調査権の発祥はやはりイギリス

国政調査権は、やはりというべきでしょうか「議会制の母国」イギリスで生まれたといわれています。すでに16世紀、市民の代表である下院が、自分たちに国政調査権が存在することを主張していたともいわれています。

そして諸説あるのですが、これが確固とした権限として確立したのが、「アイルランド戦争に対する調査」、というのが有力な説であるようです。

イギリスは17世紀中ごろに起こったピューリタン革命(清教徒革命)のあと、一時共和制となり、クロムウェルという人が独裁者となっていろんなことをします。

その1つがアイルランドの征服だったのですが、クロムウェルの死後、復活した議会が1689年にそのことについて調査をした……これが国政調査権の具体的な発祥といわれています。

他にも諸説あるのですが、ともかくイギリスに市民革命の嵐が吹き荒れた17世紀末までに、イギリス議会の国政調査権が確立されていったようで、これがその後の各国の議会制度にも影響を与えていったと考えられています。

アメリカの国政調査権

国政調査権
憲法の規定がなくても、議会主義の伝統を受け継ぐアメリカでは「議会の国政調査権」は当たり前にあるものと認識されてきた
イギリス市民革命のほぼ1世紀後に独立したアメリカの議会制にも、やはりイギリスの伝統が受け継がれています。

そのため憲法でこれといった明文規定はないものの、議会が国政調査権を持つことは当然のことと考えられてきたようです。

アメリカ議会最初の国政調査権の発動は1792年、軍隊が無名酋長率いるインディアン部隊に負けたこと(セントクレア事件)を調査するものであったといわれています。

このとき、軍の最高司令官でもある初代大統領ワシントンに、アメリカ議会の下院は資料の提出を要求。ワシントンは検討した結果、これを受け入れ、議会の国政調査権が確立したといいます。

このように、初期のアメリカ議会の国政調査権はもっぱら軍事に関するものであったようで(南北戦争の指揮のありかたなど)、そのあたりが建国以来軍の文民統制を確固たるものにしているアメリカらしいところです。

また、日本の証人喚問に当たる「召喚権の発動」は、下院がセントクレア事件のときにすでにこれを行い、以後国政調査権の一環として定着しました。

さて、不正の摘発を目的とした国政調査権の発動は第2次大戦後になって活発化します。この最大のものが、有名な1973年、ウォーターゲート事件(大統領側近たちによる盗聴などが行われた事件)に対する調査でした。

このとき、上下両院の委員会は当時のニクソン大統領に召喚状を送り、ニクソンは辞任に追い込まれたのでした。

アメリカではやくも問題になっていた「個人の人権と国政調査権」

ただ、こうして発展してきたアメリカ議会の国政調査権が、必ずしも問題がなかったか、というとそうでもありません。

特に、冷戦が加熱していた時期、反共産主義(マッカーシズム)の風潮から生まれたいわゆる「マッカーシー委員会」(この急先鋒がマッカーシー議員であったことからこの名がついたものです)の調査については、個人の思想調査にまで及び、人権上の意味から、大きな問題を残したといわれています。

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