2ページ目 【行政代執行の具体的手続……どういう手順で行われる?費用の負担者は?】
3ページ目 【行政代執行にはなぜ刑事強制措置のように裁判所による監視がないのか?】
【行政代執行の具体的手続……どういう手順で行われる?費用の負担者は?】
「市民・国民の利益のため」の代執行制度
さて、このように民間人は「自力救済」を行えないわけですが、国家や地方公共団体などの行政機関は、法令を破った者などに対しては、「国民・住民を代表して強制的措置を行うことができる」のです。市道のまん中に住む、ということは、市民の財産である市道を侵しているわけですね。ただ、だからといって民間人が勝手にその人を強制的に排除することは許されません。市が、被害を被っている市民に代わって「代執行」を行って強制排除するのです。
この、行政力が合法的に持っている「強制力=権力」のあるなしが、国家や地方公共団体などの権力機関とその他の機関との決定的な違いといえますね。犯罪者を強制的に逮捕するのはもちろんですが、犯罪者ではなくても法令違反状態を強制的に現状回復することができる、それが代執行なわけです。
当然、法令に根拠のない代執行はできない
耐震強度偽装マンションの住民に出された使用禁止命令も、建築基準法に従った命令であり、従わない場合は代執行の対象となる。 |
つまり、たとえ違法性のある行為だとしても、それをしないことが犯罪にならないことを(たとえば公立公園のテントの撤去など)、行政機関が行うわけですから、それ相応の「透明性」が必要になります。
そこで、「行政代執行法」では、法令に根拠のない代執行はできないことが第一に規定されています。
行政代執行法 第1条
法律(法律の委任に基く命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基き行政庁により命ぜられた行為(他人が代つてなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によつてその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。(下線はガイドによる)
さて、そこに住んでいる人たちはどうなるのでしょう。
住んでいる人たちが撤去の妨害をした場合、排除するための最小限の実力行使は許されるというのが一般的な見方ですが、判例によっては、批判的な見解もあります。
★All About関連記事 耐震強度偽装に絡む相談窓口一覧
人権を制約する以上、その手続には透明性が必要
さて、代執行を行う前には、「戒告」を行います。かならず文書で行わなければなりません。口頭での戒告は、「言った言わない」になり、代執行手続が不透明になるからですね。行政代執行法 第3条1項
前条の規定による処分(代執行)をなすには、相当の履行期限を定め、その期限までに履行がなされないときは、代執行をなすべき旨を、予め文書で戒告しなければならない。(下線はガイドによる)
なお、この戒告に対しては、当然、裁判所などに不服申し立てを行うことは当然認められなければならないというのが学説の主流です。法令に基づいて代執行して人権の制約を行うべきか否か、その最終決定権は裁判所にあるからです。
なお、緊急の場合はこの措置を省略することができるとされています(行政代執行法第3条3項)。
代執行によって撤去される財産を破壊することは原則許されない
行政代執行の具体的的手続。すべては文書により当事者に示されなくてはならない。 |
そのうえで、令状書に基づき、執行責任者は証票の携帯、そして当事者への提示を行った上で、代執行を行います。
あくまで「代わりの執行=代執行」ですから、撤去する当事者の財産は、壊さないようにしなくてはなりません。
例えば、はちみつを作っている養蜂場を代執行によって撤去するためには、専門家によってみつばちを死滅させないように行わなければならないという判決があります(福岡高裁宮崎支部、1965年)。
代執行にかかった経費は当事者負担となる
代執行にかかった費用は、やはり行政機関による「代理の執行」ということですから、当事者本人に納付の義務が発生します。もし納付しない場合は、国税の滞納処分と同じやり方で、強制徴収することができるように規定されています。
★All About関連記事 オークションの儲けは確定申告を