2ページ目 【経済的手段を重視して成功した封じ込め政策】
3ページ目 【ケナン先生の目から見た冷戦とイラク戦争とは】
【ケナン先生の目から見た冷戦とイラク戦争とは】
『X論文』にみるケナン先生のほんとうの主張
「とにかく、私が強調したかったのは、力ではダメ。感情的になってもダメ。これはイデオロギーの戦いだから、理性的な方が勝つということだ。だからこう書いた。そうした(封じ込め)政策は、外面的な演劇、即ち脅威や怒ごうや、あるいは外面的な「強硬さ」という大げさな身振りとは何の関係もないことを指摘しておくことは重要である。(『X論文』、引用元は杉江栄一編『現代国際政治資料集』法律文化社、カッコ内は筆者による追加)
しかし、やはりというか、「封じ込め」が一人歩きしはじめた。次第に過剰な反共ムードが盛り上がってきた。」
そして、やがてやってくるのが悪名高い「マッカーシズム」の時代ですね。
「うむ。だから誤解はされてたんだ。しかし、イデオロギーの戦いにおいて、あのように、強引に共産主義者を弾圧するような政策は、かえってマイナスなのだ。結果、西欧や日本でも、反米感情が高まることになる。」
現実外交を主張するケナン先生
そして、先生は母校プリンストン大学に戻って、研究に専念するのですね。そこで書かれた名著が『アメリカ外交50年』。そこで先生が言いたかったことは。「とにかく、アメリカはややもすれば理念、理想に走りがちだ。それも重要だが、現実を直視しなければならない。平和のために戦争をすれば、結局みんな傷付く。私はこう書いた。
世界問題に対する法律家的アプローチ(筆者注、ケナンは理念過剰な考えによる政策をこう呼んでいるようだ)は、明らかに戦争と暴力を無くそうとの熱望に根ざしているのだが、国家的利益の擁護という古くからの動機よりも、却って暴力を永引かせ、激化させ、政治的安定をもっと破壊させるようにするのは、奇妙なことだが、本当のことである。(『アメリカ外交50年』、引用元は花井等編『名著に学ぶ国際関係論』有斐閣)
でも結局、先生の考えは、皮肉なことに、その後の冷戦の基本原則、力には力で、を産み出してしまった。
「だから、それが一番悔やまれるのだ。軍事力を使うことは、否定しない。キューバ危機(1962年、キューバにソ連がミサイル基地をつくろうとして、米ソ戦争に突入しかけた事件。アメリカは軍事力による海上封鎖でソ連を阻止し、ソ連を屈服させて終わった)では、軍事力は有効に使われたからね。
しかし、ベトナム戦争はどうだ。ベトナムが社会主義化するのは痛いが、しかしそれよりも大きな政治・経済力のある同盟国、日本なんかもそうだが、それを守ることが先決で、あの小国の戦争にあんなに労力をつかうことはなかった。
結局、アメリカの威信は落ちるわ、日本もそうだが反米感情が強まるわで、いいことはなかった。
「ケナンの予言」は見事に的中した
「ああいう戦争をしなくても、ちゃんと『封じ込め』ておけば、共産主義体制というのは、前にもいったが、しょせん実験的なもので、いつかは崩壊するか、開放的にならざるを得ないと考えていたのだ。それは『X論文』でも書いていた。」ケナンの予言、といわれるやつですね。結局見事に的中しました。しかもソ連のように崩壊する国も出れば、中国のように開放的な修正社会主義に走る国も出て。
「ソ連にいたからね。見てたから。冷静に。
とにかく、国際政治の分析に、感情は禁物だ。感情は、人を現実から、かえって遠ざける。感情ではなく、理性で現実を直視することが大事なのだ。」
現実主義者ケナン先生がみたイラク戦争
ケナン先生は晩年、イラク戦争にも反対していました。「そりゃそうさ。湾岸戦争では、ロシアもフランスもアメリカを支持し、冷戦後の国際協調体制ができていた。これを維持するのが重要だったのだ。テロとの戦いでも、この協調路線は活用された。
しかし、イラク戦争でそれが壊れた。イラク戦争を正当化するのは難しい。力には力、だから。先にいったが、軍事力を使うことは否定しない。しかし、イラク戦争は、アメリカによる侵略じゃないかといわれる時、それに反論する十分な理論武装ができていない。いや、できない戦争なのだ。
結局、アメリカの国益にはあまりつながらなかった。獲得した石油利権なんて、たかが知れている。フセインの独裁に憤激するのはわかるが、それに『外面的な演劇』で対抗しても国益にはつながらないのだ。
しかも、ネオコンやブッシュは理念的すぎる。本でも書いたが、『自由のための戦争』などという戦争はかえってタチの悪いものになりやすい。」
なるほど……あ先生、そろそろお帰りのお時間です。今日はどうもありがとうございました。
「他にも話したいことはいろいろあったが……しょうがない、私の本を読んで勉強してくれたまえ。それではさらばだ。アメリカと世界に神の御加護がありますように。」
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