社会ニュース/よくわかる政治

京都議定書ほんとの基礎知識1

先月発効した京都議定書。国際社会が一団となってCO2削減に取り組むという画期的な条約です。とはいえ、その全貌を知っている人ははたしてどれだけいるのか…ほんとの基礎知識を頭に叩き込みましょう。

執筆者:辻 雅之

(2005.03.01)

地球温暖化防止を目指す国際条約「京都議定書」が2005年2月16日に発効しました。しかし、京都議定書の全貌を理解している人は果たしてどれだけいるのでしょう? 世界史上画期的とも言え、それだけに問題も山積な京都議定書についての基礎知識解説です。

1ページ目 【京都議定書の意義と、そこに横たわる難問】
2ページ目 【国際社会が温暖化対策にとりくみはじめた90年代はじめ】
3ページ目 【京都会議前夜までの、EU・アメリカ・日本の動き】

【京都議定書の意義と、そこに横たわる難問】

●こちらも要チェック! 政治についての基本知識と基本用語

地球温暖化という先の見えない恐怖

地球温暖化のメカニズムは、わかっているようで、わかっていないことが多いのです。確かに、温室効果ガスが増えて、地球が温暖化する、という理屈は現在ではほぼ定説となっています。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第3次報告書によると、温室効果ガスの主役CO2(二酸化炭素)は過去2000万年間中でおそらく最高値に達しているといわれ、20世紀中に気温が0.6℃(ただし誤差上下0.2℃)上昇したといわれています(出所:気象庁サイト「IPCC第三次評価報告書」以下も同じ)。

しかし、これからどうなるのかはわからないことだらけです。IPCCでさえ、1990年から2100年までの地上平均気温上昇は、1.4~5.8℃と、かなり幅をとった不確定な数値しか導き出せていません。

よくいわれている海面水位もIPCCの報告では1990年から2100年までで最大0.88mの上昇にすぎないことが示されています。雪や氷が解けたとして、それがどのような影響を及ぼすのか、ものすごく説得力のあることをいえる学者はひとりもいません。

しかし、それだからこそ怖いのです。二酸化炭素の増加は、地球45億年の歴史から考えると、はるかに急激です(IPCC報告書によると産業革命以来31%増加)。だれも、この先が読めない、これが地球温暖化問題の一番の怖いところなのです。

地球がちょっと温暖化したからって、何もないかもしれない。いろいろやったのに、何もなくて後悔した。そういうこともあるかもしれません。世界経済にロスしか与えないかもしれません。

しかし、人類の未来を考えたら、この不確定な状況の中、何もやらなくて後悔してしまった方が、遥かにこわいことだと私は考えます。何もやらなかったがために、こんなことになってしまったじゃないか、そっちの後悔の方が大きいはずです。

人類の多くは、やって後悔するより、やらない後悔の方を恐れています。だから、何かやらねば。これは、あのブッシュ大統領でさえ、基本的には思っていることなわけで。

京都議定書には大きな意義があるが、しかし問題も多い

とはいえ、そのために作られた、人類史上始めてCO2の排出削減を法的な義務とした国際法である京都議定書の中身は、はっきりいって問題だらけです。だから、1997年に作られたにもかかわらず、しかも緊急性が高いにもかかわらず、ここまで発効に時間がかかってしまった。

しょうがない部分はあります。誰もが生きていれば吐き出すのがCO2です。こんなどこにでもある物質の排出規制をしようというのだから、最初からうまい解決策を作れというほうが無理かもしれません。

しかし、問題は問題です。日本国民にとって一番の問題は、この条約で一番不利なのがどこからどうかんがえても日本だ、ということです。それは後々お話しますが、「京都議定書で決められた削減量を達成しようとすると、CO2削減コストが日本だけダントツに高い」というところが大問題です。

そして、途上国に排出規制がないことも問題です。たとえば排出数値規制義務のない(排出を減らす努力をする義務はある)中国は、どんどん経済成長し、CO2を出しまくっています。1999年で、すでに中国の排出量は世界の排出量の11.9%を占め(オークリッジ国立研究所調べ、データ出所は「世界国勢図会第14版」財団法人矢野恒太記念会)アメリカに次いで2番目の「CO2排出国」になっています。

排出権取引にも、問題があります。CO2をたくさん削減した国が、CO2を基準以上削減できなかった国に対して、排出権を売る制度です。これで全体の排出量削減がなんとかうまくいくようにみえます(排出権取引についてはAll Aboutよくわかる経済きれいな空気、お値段いくら?をご参照ください)。

しかし、経済が停滞しているロシアは、削減義務量よりもはるかに低い排出しかできていません。このままだと排出権が余りまくって、売れ残り、排出権が暴落し、排出権市場そのものが成立しないかもしれないのです(これを「ホットエア問題」といいます)。

なぜに京都議定書は問題をかかえてしまったのか

ほかにも、知られていないことが多いです。なぜ、最初EU(ヨーロッパ連合)は15%もの削減ができるといいはじめたのか。これは他の国々を混乱させました。

なぜ、アメリカのクリントン政権は調印しておいて、批准にまわさず、ブッシュ政権による京都議定書離脱を招いてしまったのか。

なぜ、日本は正直いってきつい条件をのまざるを得なかったのか。

そして、京都議定書が発効したとはいえ、削減量を満たせなかった国に、どうやってペナルティを課すのか。まさか軍事制裁とはいかないでしょう。

とりあえず、次のページから、まずはこの京都議定書ができるまでを、解説していきたいと思います。

  • 1
  • 2
  • 3
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます