2ページ目 【独裁軍事政権をアメリカが支えたことで火がついたギリシャ国民の反米感情】
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【同じ宗教、歴史を共有するセルビアへのアメリカによる攻撃にむかついたギリシャ人】
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旧ユーゴスラビアとギリシャ
セルビアを中心とした旧ユーゴスラビア、現在はセルビア・モンテネグロと改称したこの国、特にセルビアに対して、ギリシャ人はある種のシンパシーを感じています。それは宗教です。ギリシャも旧ユーゴの中心セルビアも、キリスト教三大宗派の1つ、ギリシャ正教の国。中世、ビザンティン帝国が確立したこの宗派に、ギリシャもセルビアも属している。
また、セルビアはギリシャ同様、中世から近代にかけて異教徒のオスマン帝国に支配されてきたという歴史を共有しています。苦難の末勝ち取った両国の独立。そんなシンパシーがあって、第1次世界大戦でも、ギリシャはセルビアを支援。
また、第2次世界大戦では、ともにナチス・ドイツの占領を受けるという苦難も共有。そのあと、冷戦のために両者は2つの陣営に引き裂かれますが、基本的に同じ文化を持ち、同じような歴史を共有してきたというシンパシーは変わりませんでした。
ギリシャ人とコソボ紛争
そんなセルビアを、アメリカ率いるNATO軍は空爆しました。1999年のことです。記憶に残っている方も多いことでしょう。いわゆコソボ紛争です。セルビアは、アルバニア系住民が多いコソボ自治区のアルバニア系住民を迫害していました。それは確かに人道上放置できない問題でした。当時、クリントン政権下のアメリカは、セルビアへの空爆以外に、これを食い止める方法はない、と考えたのです。
空爆によって、セルビア人の厭戦気分は高まり、民主派が決起、アルバニア系住民を迫害していた旧ユーゴのミロシェビッチ政権は崩壊し、コソボには高度な自治権が認められ、コソボ紛争は終結しました。
しかし、これにむかついたのがギリシャ人です。同じギリシャ正教徒のセルビア人を、われわれと近しいセルビア人を、われわれ同盟国たち、とりわけアメリカはなぜ攻撃するのか。ここでも、反米感情は一気に高まりました。
1999年11月、クリントン大統領のギリシャ訪問は、こうした反米感情に大きく火をつけました。大規模な抗議デモが巻き起こり、一部は暴徒化しました。
アメリカを狙った反米テロ攻撃も、1999年には20件に達しました。多くは、アメリカが過去に支援した軍事政権に迫害された、極左のおこしたものとみられています。
これからも続くか、アメリカとの微妙な関係
そんなギリシャですが、やはりアメリカ率いるNATOについていかねば、国防に問題をきたしてしまう。はっきりいって、アメリカを敵にするような余裕もない。それどころか、「9・11」後のアテネ五輪、そのテロ対策でますますアメリカの支援が必要になっている。五輪成功のためには、アメリカ率いるNATOの力はどうしても必要と、政府は考えている。
政治上、軍事上はアメリカの同盟国。アメリカのおかげで経済は発展し、五輪も開催できた。しかし、国民感情ははっきりいって反米一色。ギリシャとアメリカの関係、かなり微妙なものがありますね。
しかし、平和のための五輪です。世界が仲良くするための五輪です。これをきっかけに、両者の関係が少しでも修復されればいいのですが。
いや、大多数のアメリカ人はどうとも思ってないか(これが問題なのですが。韓国の反米感情も、沖縄住民の反米感情も、まったく意に介していない、というか、そんなことはまったく知らないアメリカ人がほとんどでしょう)。・・・
ギリシャ人の、アメリカに対する見方が、アメリカの五輪警備支援によって、ちょっとは変わってくるものかどうか。
そういった意味で、アテネ五輪に注目するのも面白いでしょう。開会式でアメリカ選手団の入場にブーイングが出るか? そこまで子どもじゃないでしょう、ギリシャ人は。ただ、アメリカ対ギリシャ、みたいなシーンがあれば、ギリシャ人、そうとうエキサイトするでしょうね。
(写真提供:esupply)
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