(2001年9月26日)
1ページ目 【なぜ後方支援のための「新法」が必要なのか?】
2ページ目 【日本版「湾岸戦争後遺症」と自衛隊派遣の歴史】
3ページ目 【自衛隊の「国際協力」そのメリット・デメリット】
【なぜ後方支援のための「新法」が必要なのか?】
今、自衛隊をアメリカ軍の後方支援(食料などの物品、その他の戦闘に直接関わらない仕事の提供)のためにインド洋に派遣するため、新しく法律を作ろうとする動きがさかんになっています。なぜ、新しい法律が必要なのでしょう。
自衛隊の海外派遣について定めている法律のおもなものは「自衛隊法」「PKO協力法」「周辺事態法」の3つです。
このうち自衛隊法では「外国にいる日本人の救出」のための自衛隊派遣などが、PKO協力法では「平和維持活動(=紛争がひとまず終結・休止した地域の平和を維持する活動)」のための自衛隊派遣が、それぞれできるように定められています。
今のように、テロ報復攻撃の準備をすすめるアメリカ軍の後方支援をするために自衛隊を派遣するためには、おもに「周辺事態法」という法律によらなけらばなりません。
しかし、今回の「インド洋からアフガニスタン方面を攻撃するアメリカ軍の後方支援」のための自衛隊派遣を周辺事態法によって行うのは、無理があるようです。
まず周辺事態法の目的をみてみましょう。周辺事態法には(ちょっと長いですが)「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(=筆者注、つまりこれが周辺事態)」(第1条)に対応することであると定められています。
たしかに、テロ組織を放置したままでは、日本もいつなんどき、テロという名の武力攻撃にあうかわかりません。
しかし、「我が国周辺の地域」が遠くインド洋やアフガニスタンまでおよぶ、というのはちょっと無理がありそうです。
じっさい、この法律ができた時の首相、故小渕首相も「インド洋は適用されない」と国会で発言しています。ただ、これはあくまで解釈の問題。小泉首相が「インド洋は周辺地域だ」といってしまえば何とかなるような問題かもしれません。
むしろ重要なのは周辺事態法で定める「後方支援」の内容です。周辺事態法では「日米安保条約の目的の達成」のために、アメリカ軍に「物品及び役務の提供、便宜の供与その他の支援措置」を行うことができるとあるのですが(ここまでの引用はいずれも第3条1項)、この「物品の提供」には「武器(弾薬を含む。)の提供を含まない(別表第一備考1)」ことになっているのです。
しかし小泉首相のいう「アメリカへの全面的な支援」には武器弾薬の輸送や補給も視野に入っているとのこと。もしそうしようとするなら、この法律に触れてしまうことになります。「新法」制定の意図は、これを克服することにあるのかもしれません。
また、周辺事態法では自衛隊の後方支援活動には緊急の場合を除き事前の「国会の承認」が必要とされています(緊急時もあとで承認は必要)。国会での審議には時間がかかることが予想されるため、「新法」ではこの手続もなくすか簡単なものにしようと考える向きもあるようです。
自衛隊派遣地域の問題、武器弾薬輸送の問題、国会承認の問題。この3点が、「新法」ではどうなるのかが大きな注目ポイントといえそうです。
もっとも周辺事態法にしろ「新法」にしろ、10年前なら反対が多くてとても制定不可能と思われたような法律です。なぜこのような法律が制定されるようになったのか、次のページで解説していきましょう。