(2001年9月19日)
【「強い大統領」のシステム】
アメリカの大統領の基本的な役割は、アメリカの「行政権」を担うことにあります。アメリカ合衆国憲法には「行政権は、アメリカ合衆国大統領に帰属する(第2条第1節第1項)」とあります。
これって、実はえらいことです。アメリカの行政権は、大統領ただ1人にすべてまかされているわけです。行政に関わるすべてのことは、すべて大統領が1人で決定することができるのです。
日本の首相、内閣総理大臣の場合はこうはいきません。日本国憲法では「行政権は、内閣に属する(第65条)」つまり、内閣というチーム全体に行政権がまかされているわけです。
そのため、内閣でなにか決定をするためには、内閣のメンバー(大臣たち)が全員一致で同意をする必要があるとされています。ただ、内閣総理大臣はメンバーを自由に任命し、クビ(罷免)することができるので、その権力を何とか保つことができるのです。
アメリカ大統領の場合、すでに行政権は一手に自分の仕事ですから、日本でいう大臣に当たる各省の長官がいくら反対しても、大統領はいっさい耳を貸さず、自分の思うままのことを行うことができます。
あの「人民の人民による人民のための政治」を唱えたリンカーン大統領でさえ、行政のことについては、たとえ長官全員が反対したことであっても「反対7、賛成1、よって賛成に決定」と言い切っていたというくらいです。
アメリカ大統領のもうひとつの役割は、軍の最高司令官としての役割です。宣戦布告は議会の権限ですが、それ以外の軍にかかわる権限はすべて大統領のものです。世界最強の軍隊を、自分の意のままに動かすことができるということです。最近の大統領たちは、この権限を駆使して国際政治に大きな影響力を保ってきました。
1991年の湾岸戦争や1999年のセルビア空爆などは、当時のブッシュ・クリントン大統領の強力なリーダーシップのもとで行われていたことは、記憶に新しいところです。今度の対テロ報復も、ブッシュ現大統領の権限として行われることになります。
そして、大統領は議会に対して「法案拒否権」という権限を持っています。議会が可決した法律案に反対である時は、その法案を承認せず議会に突き返すことができます。このような強力な権限は、やはり日本の首相にはありません。
このような強力な権限を持つアメリカの大統領ではありますが、一方で大統領が日本の首相にくらべてすごく弱く見える場面もあります。次のページでは「弱い大統領」の側面を解説していきましょう。