注文住宅/女性視点の家づくり

「84歳サロネーゼ」を生んだリフォーム(上)(2ページ目)

子育てや介護など家族を大切にしながら自己実現できる「サロネーゼ」という生き方が注目されています。その舞台は「家」。今回は84歳女性の人生を大きく変えた、ある設計事務所の事例をご紹介します。

河名 紀子

執筆者:河名 紀子

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きっかけは重度障害を負った友人宅のリフォーム

イベント風景
主婦層を招いて暮らしを考えるイベントを定期的に開催している(アキ設計にて)
さて、そんな池上さんが「自宅サロン」をテーマに仕事するきっかけになったのは、保育園が同じだった友人が子どもたちを送迎中、交通事故で四肢マヒという重度障害を負ったことでした。

「手足が動かず、動かせるのは顔だけですから、どこにも行くことができません。明るくバリバリのワーキングマザーだった友人がある日突然、家の中にこもりきりの生活になってしまったのです」と池上さんは振り返ります。

何か自分にできることはないかと考えた池上さんは、「自分が動けないのなら気楽に人を呼べる家を」と、彼女のために設計します。「どこからみても障害者がいるようには見えない、明るい家にしてほしい」という彼女の希望どおり、あえて車椅子用スロープは設けず、不自由な体で無理に片付けをしなくてもいいような工夫を施し、多くの人を呼べる明るく広いリビングを用意。今後の収入確保も考え、賃貸併用住宅にもしました。

自宅にいても多くの人と交流できるよう、池上さんは彼女にパソコンを使うように勧めました。体は動かなくてもメール1本で「今度ウチに来ない?」と気軽に誘うことができ、たくさんの人が集うように。日本語と韓国の翻訳機能も駆使して韓国人タレントのファンクラブにも入り、韓国からも友人が遊びに来るようになったといいます。

また絵画の先生に自宅に来てもらって絵画を勉強。自宅で個展も開くようになり、彼女の生活は180度変わりました。リハビリに通っていた病院の先生があまりの変わりように驚き、自宅を訪問したところ「この家のおかげだったのですね」と納得したのだとか。

彼女はその数年後に亡くなったそうですが、池上さんは「晩年の数年間、彼女は自宅に居ながらにして思い切り人生を楽しんだと思います」と振り返ります。「人を呼ぶ家をつくると、こんなに人生を楽しめるようになるんだ」と実感した池上さんは、以後、自宅サロンをテーマの一つに掲げるようになりました。

次ページでは、そんな池上さんが手がけている84歳の自宅サロンリフォームの例を紹介します。
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