隣の敷地と高低差がある場合に設置される擁壁(ようへき)ですが、それが造られている位置をめぐってトラブルが生じることも少なくありません。
(東京都町田市 匿名 30代 女性)
建物の基礎を造るときに邪魔だからといって擁壁の基礎を壊すわけにもいきませんから、いずれにしても地中の状況を売買契約締結前に詳しく調べてもらうことが必要です。売主の責任で調べてもらうように依頼すればよいでしょう。
それはさておき、擁壁の築造位置について少し考えてみることにします。
公道に面した擁壁や、大規模な造成地などで数区画にまたがって一体で造られた擁壁なら、その位置をめぐるトラブルが生じることは、ほとんどありません。
ところが、隣接する2つの敷地(私有地同士)の間に造られた擁壁では、地中の基礎や擁壁本体そのものが「越境している」としてトラブルが生じることも意外と多いのです。
がけ地に接している土地で住宅などを建てるとき、一定の要件(※)に該当すれば基準に沿った擁壁を造らなければなりませんが、その設置義務はどうなっているのでしょうか。
(※)高低差が2m以上のがけで、その上端または下端から、高低差の2倍以内の位置に建築をしようとするときなど……自治体によって異なる場合があります。
一般的に「擁壁は地盤面が高いほうの敷地所有者が造るもの」という認識も強いようですが、そうではなく「がけ地を所有する者が、その費用と責任で設置する」というのが基本原則です。
仮に上の敷地所有者を上山さん、下の敷地所有者を下川さんとしましょう。まず、がけ地が上山さんの所有であれば、図【A】のように上山さんの敷地内で基礎部分も納まるように擁壁を造ります。また、排水のための溝なども考慮しなければなりません。
一般的には図【A】のようなケースが多いものの、もともとのがけ地が下のほうの敷地に属するケースもあります。この例でいえば、がけ地が下川さんの所有となっている場合です。
擁壁の形状は図のものとはかぎりませんが、いずれにしても上山さんの協力が得られなければ、図【B】のように敷地の境界からだいぶ手前に擁壁を造らなければならなくなってしまうことが “原則” です。
ただし、この場合にがけ地部分を埋めれば、擁壁の上部において上山さんの敷地に連続する形で帯状に下川さんの敷地が残るため、別の問題が生じかねません。
また、まれなケースでしょうが、もともとのがけ地の途中が敷地境界となっている場合も実際にあります。このようなときは図【C】のように双方の敷地所有者が協力して、敷地境界上に擁壁を造ることが原則となるわけです。
ここまでは擁壁の設置義務の原則をみてきましたが、実際に存在する擁壁を調べてみると、必ずしも原則どおりに造られているわけではありません。次のページで、その原因と対処方法を考えてみることにしましょう。
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