「最初にテラコッタのタイルを敷き詰めて、塗り壁のような雰囲気のスペイン調でというオーダーがありました。だけど、じゃあどうしてテラコッタなんですか、どうしてスペイン調がいいんですかって、ディスカッションを重ねていったときに、それが素材とか構造とかではなく、風を感じながら生活することだということにお互いに気づいたわけです。ああ、だからこの海が見える勝浦の傾斜地に、風を南北に通すような家が欲しいんだと。それはインテリアや部屋の構成や、生活のありようまでを決定づけるほどの条件ではなかったということですね」
津藤さんはスペインに長くいたので、本格的なスペイン調の家にできないこともない。しかしそれが本当に日本にいて暮らしやすい家になるかどうか。それが建て主の清水さんと津藤さんとの論点になりました。
「ただ住むのは日本人なわけだし、靴ではなく裸足の文化なので、床全部テラコッタというのはどうかと。そうした議論の中からやはり床は木にしました。それで次に、やっぱりどこかに南欧風を残したいということになり、長いアプローチが生まれたわけです」(津藤さん)
アプローチの白い壁に落ちる影はまさに南欧の空気。スペインをはじめ南欧には、そうした影の美しさを追求する感性があります。人を引き寄せる光----それが清水邸のアプローチでは、最初のクランクを曲がるとやがて見えてきます。
部屋の構成については、素材よりはずっと早く決まったそうです。傾斜地に建つ清水邸は、道路面から地階、1階、2階と数えることもできますが、正しくはリビングのあるフロアを中心とした、半地下と1.5階を配置したスキップフロアの家といえるでしょう。津藤さんの頭には、こうした「労力を使わない移動」と「視覚的な遊び」を意識した空間づくりがイメージとしてあるそうです。
「一気に2階まで上がるのは、年をとるとけっこうしんどいですよね。そうじゃなく、ちょっと行ったら休める空間があって、また行ったらちょっと面白い空間があってという、そんな機能と遊び感覚を備えた家がここにはいいのかなと。これは視覚的な面でもそうで、上階の寝室もふだんは開けっ放しにしておいて風と視線を通したかった。
もちろん壁には引き戸が収納されてますから、夜寝るときはそれを閉じて個室化することもできるわけですけど、ふだんは開けておいてほしい。そうすることでリビングに広がりも生まれますし」
寝室の間にあるテラスへも、リビングから視線が通ります。そう、すべてがリビングと視覚的につながっているんですね。そこでは海からの風が丘へと抜けていき、丘からの光線が半地下の室内にまで入り込んでくる。完成時に開いたオープンハウスに来た人たちの中から、こんな家を同じ勝浦に建ててほしいというオーダーが津藤さんあてに来たのも頷ける気がしました。
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