建て主と建築家が熱意とこだわりで完成させた家
外観のイメージは「ガレージ」、 無機質になりすぎないよう 無垢の木の化粧枠が使われている |
ご主人の加藤克則さん(40)は、さるシンクタンクに勤める経営コンサルタント。奥さんも日々ビジネスの現場で活躍中というDINKSのお二人は、ご主人が35歳になったのを機に、自分たちの趣味と生活をよりエンジョイするための計画として家を建てることを決断しました。
加藤さん夫婦が家を建てるにあたって最初に決めたのは、建築家と建てること。これはご主人の同郷の幼なじみに構造設計の建築家がいたからです(もちろん加藤邸の構造を担当)。
建築家選びに関しては、構造の三城繁伸さん(三城設計)から紹介された綜・環境計画研究所の桑山学さんに迷うことなく依頼することにしました。
「桑山さんとは一目会ったときから、この人なら通じあえると直感しました。なので自分なりにせっせと要望書を書いて、『部屋は仕切らない』『防音・断熱に優れる』『生活スタイル重視』という3つの大きな柱にまとめ、土地選びの段階からかかわっていただきました」(加藤さん)
加藤さんの要望書はなんと50ページにもおよぶ念入りなもの。その要望の明確さ、整理のされ方は、さすがコンサルタントと建築家をうならせる内容でした。ただそこに書かれた要望はすべて建築家にとっては建て主側に提案したいようなもの、問題はそれをどうやって限られた敷地の中で実現させるかだったと言います。
「二転三転した結果、生活を重視するなら狭くても都心に住むべきだという判断から中野の15坪の土地(建ぺい率75%)に決まりました。この狭さで加藤さんの要望を満たすにはどうするか。それを考えた結果がRCの壁式構造にして梁のない壁とスラブのみの空間を確保し、縦方向に広がる連続性の中に必要な機能を割り振っていくということでした」(桑山さん)
出来上がった加藤邸は、ひとつの大きな階段室のような建物で、その踊り場ごとに部屋を設けたともいえる構成になっています。その内部を拝見することにしましょう。
内部スロープを上がっていくと、 BMWとハーレーの2台のバイクが鎮座する土間 |
加藤さんのいう「生活スタイル」の中でも大きな要素を占めているのがバイクと映画鑑賞です。それは加藤邸に最初に足を踏み入れた瞬間、誰もが即座に納得させられるはず。灰炭を混入したモルタル仕上げの内部スロープを上がっていくと、正面にBMWとハーレーの2台のバイクが鎮座する場所があります。
そしてこのバイク置き場から30ミリ厚のパインの無垢材の床が始まり、ここからが「内部」というわけですね。バイク置き場で靴を脱いで数段上がると、そこは吹き抜けのあるシアタールームになっています。スクリーンはさっき通ってきた内部スロープの壁面に。ここはふだんは劇場を思わせる赤い幕が引かれています。
毎日DVDを借りてくるという
「好きなものを独り占めしてしまいました。ここは僕の究極のくつろぎ空間ですね。忙しくない日は早めに退社してビデオ屋さんで新作や好みのDVDを借り、ひとっ風呂浴びたあとそれを観ることにしています。おかげで映画館には行かなくなってしまいました」(加藤さん)
ホームシアターはサウンドクリエイト社のコーディネイトによる最新鋭機器。通常なら奥まった地下室などにつくられるホームシアターを、あえて吹き抜けのある1階土間の延長に持ってきたところは視聴環境面でどうかと思いましたが、上階の手摺り沿いに付けられた厚手の横断幕で仕切ると、意外にも閉ざされた快適なシアターが出現しました。
ご主人の指定席の背後につくられた吹き抜けを貫く本棚も、RC造の残響を考えた建築家の配慮とのことです。
さて、ここから視覚的に一体感を出すためのエキスパンドメタルの階段を上がっていくと、2階のダイニングキッチンに着きます。しかし2階からほんの70センチ上がった中3階に畳敷きの茶室が続いているため、視覚的にはそれが一連なりの空間となり、かなりの広がりが確保されていました。ダイニングキッチンは2人ならほどよい広さ、使いやすそうなキッチンの壁には階段に面してスリット状の覗き穴が開いていて、そこから映画に夢中になっているご主人を呼ぶこともできるとか。建築家の心憎い配慮ですね。茶室はもちろん来客のあるときは客室としても機能します。