オープンエアな住居はまるで空中に浮遊する感覚
見学できる住戸は6戸でしたが、基本的な考え方はみんな同じ。驚いたのは、すべてがフラットタイプだということです。デザイナーズマンションといえば、高さのある大空間を上下2つに区切ったり、螺旋階段で繋いだりしてバリエーションをつくることがなかば常識化のようになっていますが、北山さんはあえて全部フラットにして、横への広がりを強調することで、オープンエアな空間を各戸につくろうとしています。その仕掛けのひとつは、ベランダらしきものがまったくないガラスの素通しの空間の内部を、可動式の間仕切りで縦横に区切り、室内にもうひとつの「室内」をつくり出したこと。つまり、各住戸には光を通したり通さなかったりする間仕切りが付いていて、これを閉ざすことで寝室やリビング、ダイニング、バスルームといった生活空間を生みだし、逆にこれを開くことでこれらの空間をふたたび一つにするというフレキシビリティを与えたというわけです。
これは文字で説明すると、ははあなるほどと思う程度でしょうが、実際に4階にある部屋で体験してみるとなかなかすごい! 足下から天井までがガラスという住居は日本ではなかなか見ることができません。
それはまるで空中に浮遊する感覚で、ちょっとおっかなくもある。そこで、そのまま暮らしたい人は別として、間仕切りで生活の場を確保してふだんはそこで暮らす。移動だけは間仕切りの外、つまり開口部に沿ってできた回廊を使って移動するわけですね。
襖と障子で自由に空間を生み出す日本家屋の発想
しかしながら、これってどこかで見た造りではありませんか? そう、襖と障子で仕切られた日本家屋の造りですよね。北山さんは、ここではコンクリートで固められた近代的なデザイナーズマンションのイメージを一掃して、ガラスの建物内に襖と障子で自由に空間を生み出す、新しい集合住宅の概念を提案しようとしたようです。そう考えれば、全戸がフラットであることも、中庭が竹林になっていることも納得できる必然性のように思いますよね。そしてもちろん、住戸にはシンプルな長方形(I字型)にパティオが付いたものから、これにさらに別のI字型フラットを繋げたタイプ、また正方形の空間の中央部を壁で仕切ってパブリック空間とプライベート空間に分けたタイプなどをつくり、多くの住まい手たちの多様なニーズに応えられるよう、バリエーションを増やしています(収納はほとんどが可動式の家具収納)。
さあ、あなたならここをどんな生活シーンを思い描きますか? 北山さんの問いに、今度は住まい手たちがどんな答えを出すのか。楽しみなことです。
■設計監理 :北山恒+architecture WORKSHOP
■構造設計:構造計画プラスワン
■施 工 :大林組
●総戸数 :47戸
●敷地面積:1509.55 m2
●建築面積:741.65 m2
●延床面積:2635.78 m2
●構 造 :RC造+一部鉄骨造、5階建て