「お散歩が日課」であることの、いい面と悪い面
さて、今回の事件(あえて「事故」ではなく「事件」といいます)は、本当に悲しく、二度と起きてはいけないものです。責任は100%運転手にあります。けれどもこの事件は子どもたちが保育時間内に亡くなったということ以外にも、「保育園」の存在にかかわるさまざまなことについて考えさせられるものになりました。たとえば、「園庭」について。事件に巻き込まれた小鳩保育園は、0~2歳までが川口市の「家庭保育室」扱いになっている認可外保育所でした。外遊びを重視する園でしたが、園にお庭がないため、お散歩が日課でした。ときには、車で園児を郊外まで連れて行って保育をすることもあったようです。外遊びは小さな子どもには絶対必要なものです。お散歩も、園の外の社会とふれあうことができて、子どもには大きな刺激になります。
けれども、大勢の小さな子どもを園の外に連れていくのは安全確保の面からはとても大変なことです。特に都市部では園周辺の交通事情、一般の公園の環境や衛生的な面からも、必ずしも園外に出かけていくのがいいことだとは言い切れない実情があります。
せめて、園にお庭があれば、わざわざ園の外に出ていかなくても、外遊びだけはできるのに……。
実は、事件に遭った園児たちが通う園が「認可外」だったから園庭がないわけではありません。児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第四十五条に基づく保育所施設の「最低基準」によれば、園庭はこんなふうに決められています。
「第三十二条 保育所の設備の基準は、次のとおりとする。
(中略)
五 満二歳以上の幼児を入所させる保育所には、保育室又は遊戯室、屋外遊戯場(保育所の付近にある屋外遊戯場に代わるべき場所を含む。以下同じ)、調理室及び便所を設けること」
つまり、認可保育園には屋外遊技場、つまり「園庭」がなくても、<保育園の近所にあって園庭のように子どもたちが遊べる公園などがあればいい>、というのです。以前はこの「保育所の付近にある屋外遊技場に代わるべき場所を含む」という一文はありませんでした。待機児解消のための規制緩和によって、このように法律自体がゆるく変わったのです。
車に気をつける、信号待ちの仕方を習うなど、子どもたちの社会性を養う面からみれば、お散歩も大切な保育の一環。けれども単純に外遊びを重視するという面からみれば、いくら近くに公園があったとしても、そこに毎日出かけていくとすれば多少のリスクが伴います。もし、すべての保育園にお庭があったなら、近所でも園の外に出るという「多少のリスク」は「ゼロ」になるのです。
地域の子どもたちを守る保育園
最近増えている、ターミナル駅の近くや、ビルの中にある保育園は、お庭がないところばかりです。お散歩に出れば、繁華街の危険と背中合わせの園も少なくありません。親にとっては便利ですが、子どもにとって本当にいいことかどうか、もう一度考えてみることも必要かもしれません。子どもの外遊びの機会と同時に安全もしっかり確保できるような保育園が増えるよう、働きかけも必要でしょう。子どもの命を守り、育てることが保育園のいちばんの役割。少子化の今、地域の中にそんな安全な場所をしっかり確保し、園児に限らず、広く地域の子どもたちにも開放していくくらいのことをしていくべきではないでしょうか? 自分の子どもだけでなく、すべての子どもの命を守るために、私たち親がともに考えなければならない大きな課題です。
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