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メキシコ料理の最傑作のひとつ「モレ」。 個性的な味わいだが、ぜひ食したい逸品だ。 |
メキシコ料理には計り知れない底力が……
今から15、6年前のことだろうか。原宿の明治通り沿いの地下に、本格的なメキシコ料理が食べられると評判の店がオープンした。当時はエスニック料理ブーム?が到来して数年後。好奇心旺盛であった私は、良さそうな各国料理店がオープンしたと聞くと、瞬時にスイッチがはいり、そそくさと出かけていた。
メキシコ料理を食べに行ったこともしばしば。その頃の私は、メキシコ料理といったらやっぱりタコスよね、辛いのかしら……くらいの知識しかもっていなかったこともあり、どの店で出合う料理にも新鮮な驚きがあった。が、メキシコ料理通のかたに連れて行ってもらった原宿の店でのひとときは、ひと際鮮やかな印象として私の中に刻みこまれた。何もかもが衝撃的だったのだ。そしてその後は惹きつけられるように足繁く通ったものだ。
店内の雰囲気も素晴らしいものだったが、何よりも料理に驚愕した。いままで口にしたことがない料理がずらり。しかも、野生味を帯び、躍動感のある味ながら、洗練されていて上品。値段もそれなりにしたのだが、何を食べても度肝を抜かれるその多彩な“作品”の数々に、メキシコ料理=タコスのイメージが一気に吹き飛んだことを覚えている。
やっと出会えた!待望の料理人に!
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カブリエル氏が作るトルティージャは温かいうちはもちろん、冷めても味わい深くて美味。当時この店で料理を作っていたのが、マウリリオ・ガブリエル・サントスさんである。豊かな食文化に彩られたオアハカ州出身の彼は、首都メキシコシティの有名なレストランでも腕をふるっていたと聞いていた。(後に高級フランス料理店で修業を積んでいたことがわかったのだが)
そんな彼の手から生みだされる魅惑的なエキスは、身体に何の負荷もなく浸透していき、馴染んでいった。とにかく私の身体に合っていたのだと思う。しかしあるときから、あれ?何か身体が反応している?そう感じ始めて通うこと数回。やっぱり何かが違う。尋ねてみると、ガブリエル氏が辞められたという……。
いま思えば、原宿の店の味は大きく変わっていなかったように思うのだが、私にとってはガブリエル氏の味がべースになっていただけに、拍子抜けしてしまっただけなのかもしれない。(ちなみに、現在もそのお店はあります。)
その後、メキシコを訪れ、さらに幾重にも重なり合うメキシコ料理の魅力に翻弄された。帰国後、東京のメキシコ料理店を巡ってみると、何軒かお気に入りの店を発見。そのときは身体が満たされるものの、その度にそんな満足感とは反し、ガブリエル氏の料理を熱望するようになっていた。食べられないとわかると余計に食べたくなる……人間の心理でしょうかね。
とそんな日々を過ごしていたところに、先日朗報が。なんと、あのカブリエル氏が下北沢のとあるお店で料理を手掛けているというのだ。こ、これは行かねばならぬ!すぐさま訪問してみることにした。