カフェの扉を開けてすぐの左手の壁には、「今月の一冊」と題した黒紙が貼られ、書物が紹介されていました。君波さんのかつての職業は情報雑誌のWeb担当。本の紹介にも、書架に並ぶ多数の本のテーマ別分類にも編集のセンスが光ります。
10月の一冊は『作家の家』と題した写真集(写真上右)。君波さんは黒紙に白い文字でこのように綴っていました。
創作の孤独に耐え、創造力や日常といった無形のものを
“作品”という具体的な形に昇華させねばならない作家にとって
現場たる家というのは並々ならぬ美学やこだわりのつまった
創作の源泉のようなものなのかもしれません。
(…略…)
それぞれの精神世界が形になったような個性的な家を、
見事な写真に、作家の生涯を綴って紹介。
ただ写真を眺め、圧倒されるもよし、
ミステリーを読むように、お気に入りの作家が何故この作品を
生み出したのか謎解きするもよし、
いろんな読み方のできる、刺激的な本だと思います。
よかったら、手にとってみてくださいね。
あつあつのシチューをちびちび食べながらめくった『作家の家』の面白いこと! コクトーやマルグリット・デュラスをはじめ、錚々たる顔ぶれの作家たちの部屋が紹介されています。私の視線は自然に食卓と書斎ばかりを追い、ヴァージニア・ウルフやユルスナールの書斎は生理的に共感できるけれど、ヘミングウェイの家で暮らすのは無理…などと考えて楽しみました。
店内のあちこちで目をひく金属製のユーモラスなオブジェは、廃材アーティスト・高橋耕也さんの作品。そのうち一体が片手を挙げて合図するので(写真上)眺めておりますと、下に置かれたトランクが蓄音機でした。君波さんにハンドルを操作していただいて、古いレコード盤のSingin'
in the Rain(雨に唄えば)に耳を傾けました。
ここ数年でめざましい変貌を遂げた仙川。
「これまでは小さな街として閉じていましたが、外からも人の訪れる街になろうとしているのかもしれませんね。下北沢はいま、古くからの繁華街として変化の時代を迎えようとしていますが、仙川は何もないところにできた小さな新しい街。その街の変化を眺めながら、10年、20年とお店を続けていきたいと思っています」