高校時代に伝説の「もか」に出会って
カウンターに立ち、コーノ式ドリッパーを使って一杯ずつ丹念にコーヒーをハンドドリップしているのが岩崎泰三さん。高校時代に伝説の自家焙煎店「もか」に通い、標交紀(しめぎゆきとし)さんの焙煎したモカに衝撃を受けていたという筋金入りのコーヒーマニアです。
「標さんのモカはそれまでに飲んだコーヒーとは全く別格で、豆を挽いてお湯を入れたとたんに立ちのぼる香りに驚かされましたね」
※標交紀さんについては『コーヒーの鬼がゆく~吉祥寺「もか」遺聞』をどうぞ。
岩崎さんが淹れてくれた最初の一杯は、ホリグチのエチオピア・イルガチェフェ。私の脳が「エキゾチックで優雅な花束の香り」と翻訳する魅力的な香りと、しっかりした力強いボディ。この豆の良さをよく知っている人が淹れてくれた、という充実した味わいです。
二杯目にいただいたブレンドコーヒーは、華やかな香りと苦味とコクのバランスのとれた、コーヒー好きの人にも飲み慣れない人にも愛されそうな風味でした。
もはや誰も標さんのようにコーヒーを焙煎することはできないけれど、日本各地にその味の魅力を知る人が点在していて、記憶の中で輝く“あの味”の点と、現在、自分が淹れるコーヒーの点を結ぼうとしているのかもしれません。
コーヒーとよく合うスイーツたち
自家製のスイーツは、シフォンケーキ(写真上)、チーズケーキ(写真下)ともに、コーヒーとの相性の良さにこだわって試行錯誤を重ねたオリジナルレシピ。
シフォンケーキは「ふわふわしすぎた食感では、コーヒーには物足りない」という視点から(たしかに、そういうシフォンケーキなら紅茶のほうが合いますよね)、ふんわり、しっとりしているけれど、ほどよく量感のあるおいしさ。
ベイクドチーズケーキにはレモンがたっぷり使われていて、レアチーズに負けない濃縮感と、さわやかな後味が楽しめます。
コーヒーの味と香り、どう表現しますか
用いられているコーヒーカップは、主にヨーロッパの名窯のちょっと古い時代のもの。写真の水色のウェッジウッドは、1950年代のクウィーンズウェアでしょうか。上右のたっぷりと金色があしらわれたきらびやかなカップは、タイ王室専用の磁器ブランドのもの。
驚いたのは、岩崎さんがコーヒーの味と香りを三次元の立体でイメージしていること。(私は色でイメージするのです) コーヒー店のマスターとミュージシャンの共通項についても、大変興味深いお話をうかがいました。