コーヒーはトルコを起源としてヨーロッパに伝播し、やがてアメリカや日本にも広まりましたが、各国で花開いたコーヒー文化は国ごとに独自の色彩を帯びています。美食の国フランスでは食事にも合うコーヒー、イタリアでは単独で楽しむコーヒーが発展。
「シアトルのコーヒーはその両方のバランスを巧みにとっていると思います」と田中さん。
アメリカのコーヒー・シーンを牽引するシアトル
スターバックス誕生の地であり、また、現在のスペシャルティコーヒー・ブームをリードしてきたのは西海岸シアトルでした。街には“コーヒーキャピタル”と呼ばれるほど大小のカフェやロースターが林立し、高品質のコーヒーやエスプレッソが飲まれています。
その文化の広まりに時差があったのが東海岸のニューヨーク。90年代にはシアトルより10年以上遅れていると揶揄されましたが、2000年代前半には格段にクオリティが向上。
Gimme!(ギンミ)やNinth Street Espresso(ナインス・ストリート・エスプレッソ)、Cafe Grumpy(カフェ・グランピー)、abraco(アブラッソ)などの名店が次々に誕生していき、“第3の波”のカフェと呼ばれています。
飲み干したあと、カップに残る色は
つややかなブラウン
ニューヨーク・エスプレッソの魅力
田中さんはGimme!マンハッタン店でバリスタ、そしてクオリティー・スペシャリストとして活躍。ニューヨークにはニューヨークならではの魅力を持つエスプレッソを、と考える多数の仲間たちとともに洗練させたエスプレッソの味わいは、濃厚でスパイシー。そしてビターチョコレートの風味と、シトラス系の美しい酸味を有する力強いおいしさ。
さっそく飲んでみると、舌に触れたとたんにスパイシーな苦みがひろがり、おお…と思った次の瞬間、魅力的な酸味がスパークしました。それはあたかも口の中で、金色がかったオレンジ色の小惑星が輝きながら爆発したかのような印象。
目のさめるようなこの面白さ、ぜひご自分の舌と鼻で体験してみてください。エスプレッソもコーヒーも、どこがおいしいのかポイントがわからない…という人こそ、格好のチャンス。田中さんはお客さま一人ひとりに楽しんでいただくために、労力を惜しまず気さくに説明してくれるのです。
バリスタの仕事は完璧な一杯を抽出するだけにとどまらず、お客さまが新しい味覚の扉を開いて楽しむのを手伝うことなのだということが、田中さんの姿勢から感じられます。ぜひ遠慮なく質問して、ご自分にとっての小さな発見を手に入れてくださいね。