「土」から紡がれるもの--うつわ、野菜、ひと
秋の夜長の気配がたちこめる馬喰町ARt+EATは、私が知っていた午後の美しい空間とはまた別種の魅力を湛えていました。大きな木のテーブルに置かれた白い紙には、「本日の野菜、果物」の文字。この夜の料理に使われた野菜や果物の名前がすべて書かれていました。その最後に「全て、三鷹市産」。
西荻窪「のらぼう」店主・明峯牧夫さんは、午前中いっぱいかかって三鷹の若手生産者たちの畑を回り、作り手といっしょに、いま畑に実っている野菜たちをみずからの両手でもいできたのです。
東京の畑は、耕す人だけではなく住民みんなのもの
白壁にプロジェクターで10分ほどの短い映像が投影され、明峯さんが作り手たちとなごやかに会話を交わしながら、茄子やトウモロコシをもいでいく姿が紹介されました。
東京の畑は、試行錯誤しながら野菜づくりに奮闘している作り手だけのものではなく、そのまわりで生活するみんなのものだと思う、と明峯さん。
「住宅地の中に畑があれば災害時の非難場所になるし、台風のときも洪水の心配を低減してくれます。隣接する小学校の子どもたちはこの畑でイモ堀りを楽しんでいます。また、作物ばかりでなく花も植えられていますから、道ゆく人々の目も喜ばせているんです」
という明峯さんの言葉が心に響きました。
「東京の生産者たちが畑にこめた想いを、料理を通して人に伝えるのが僕の役目です。自分が暮らす土地で、どんな食べものが作られているのか。それを知り、食べることで、見えてくるものがあると思うのです」