「癒されたいときに、この場所に来るんです」と言って私を竹林Cafeに案内してくれた人が、こんなエピソードを教えてくれました。
精神状態が最悪の日に竹林Cafeを訪れたときのこと。中庭でおいしいカレーを楽しんだあと、風に吹かれながらのんびり過ごしているうちに夕暮れがひっそりとやってきて、ふと母屋を眺めると、部屋にぽつんと灯りがともり、真木さんが機を織る姿が浮かびあがっていたのだそうです。
その光景がどれほど胸に沁み入るものだったか、想像に難くありません。私たちの記憶の奥底に横たわる原風景。
手紡ぎ、手織りの布たち
かつてこの古民家で暮らしていたのは、養蚕を営む農家の人々。真木さんが改装を進めていくうちに、現在ではもはや生産されていない種類の繭も発見されたそう。
「いい糸を見つけたら、しばらくの間、手元に置いて、ながめたり、なでたり、さすったりしています。必要とあれば糸染めもします。ほかの素材と合わせたらどうなるか、こんな構造にしてみたらどんな風合いが出るか、あれこれ想像します」
織っているときには何を考えているのですか、と真木さんに尋ねると、集中しながらぼんやりしているような状態なのだそうです。頭で考えずに、感覚の導くままに色を選んで織りあわせていく--そんな不思議な時間の堆積から、人の心を惹きつける作品が生まれていきます。