竹林の奥に潜む別世界へ
冬のある午後、真木テキスタイルスタジオを主宰する手織物作家・真木千秋さんの「竹の家」を訪ねました。
「竹の家」は築200年の歴史を刻んできた古民家。風にしなう孟宗竹の繊細な緑に隔てられて、この場所には都心に流れる時間とはまったく別種の時間が豊かに流れています。小雨のあがったあとの濡れた枯葉と土の匂い。季節ごと、時間ごとに変化していく空の色。
真木千秋さんは世界各地を旅して糸や素材に出会っては、竹林に守られたこの場所で機(はた)を織り、さらにそれをインドの工房で現地の手織り職人たちとともに一枚の布へと仕上げています。
少し気の遠くなるような、丹念な手の仕事。その日々を支えるには、ゆるぎない足どりで人々の暮らしが営まれてきた空間と静かな時間が必要だったようです。
竹林の入り口に立つ木製の看板には、糸という文字を横に3つ織りつらねたシンボルマーク。「自然の流れをタテ糸に、人の往来をヨコ糸に、世の移ろいを綾に」。
その奥に、ケヤキの大木に抱かれて古民家の母屋がたたずみ、中庭を隔てた一角には新しく建てられたショップとカフェがありました。
母屋を見ながらcafeへと歩みを進めると、中庭の鳥の餌箱にエサを入れていた青年が立ち上がり、こちらに歩いてきます。エレガントに微笑するその彼がカフェのシェフ、インドから来日しているラケッシュさんでした。