渋谷の老舗に流れる琥珀色の時間
軒先に下がる焦茶色の板に、白い「珈琲」の文字。1989年9月に渋谷・宮益坂下に誕生した珈琲店「羽當」は、やがて20周年を迎えようとする現在も変わらぬたたずまいで日々たくさんのお客さまを迎えています。
木の扉を開けて店内に入ると、12mもの長さを誇る松材の一枚板のカウンターが目に飛び込んできます。カウンター奥の飾り棚に並ぶコーヒーカップは全部で300客以上。オーナー羽當さんの趣味で、ヨーロッパの名窯から有田焼まで1客ずつ異なる種類が並んでいます。私も訪れるたびに、目の前に違うコーヒーカップが運ばれてくるのを楽しみのひとつにしてきました。
ロイヤルコペンハーゲン、ウエッジウッド、ジノり、ヘレンド、120年前のロイヤルウースター。
「お客さまの雰囲気に合わせてカップを選んでいます」と、羽當開店当時からカウンターに立ちつづけてきた店長の田口豊志さん。
かつて新宿の珈琲店でネルドリップの腕をふるっていた田口さんは、そこにお客さまとして通っていた羽當さんに声をかけられ、羽當のオープンに立ち会うことに。今回の記事は、開店から現在までの羽當の歴史を最もよく知る田口さんのお話をお届けします。