読書は時間をとられる作業だから
古書店バラー堂から、古本屋カフェへのスタイルへと生まれ変わった理由を尋ねてみました。「ある時、やっと手に入れた本がすぐに売れてしまうことに、喜びよりも切なさが先にくるようになってしまって。この繰り返しの日々は自分には性が合わないって思ったんです。それと本よりも人と話すことの方が、全然好きですから」
カフェになると本の売れゆきは半減したそうですが、お客さまとの関わり方が全く違うと柏木さん。カフェのお客さまと本の情報交換もするのですかと尋ねたら、回答はNOでした。その理由は--
「たとえば、音楽ならBGMとして流しておくことができます。映画を観るのは2時間で済みます。でも真剣に本と向き合うには、長い時間と集中するエネルギーが必要になります。自分から薦めた本を人に読んでもらうことは、その人の大事な一日を預けてもらうわけですから、おいそれと「読んでみてください」とは、言いづらいんです」 と柏木さん。
「もちろん質問を受ければお答えしますが、そもそも僕がお店に来るのは夜、お酒を飲む人が多い時間帯。お酒を飲みながら本の話なんてしないでしょう?(笑)」
柏木さんの鮮烈な読書体験は高校3年のとき。それまでは本嫌いだった柏木さんですが、たまたま暇をもて余した休日に、自宅にあった父親の文学全集からなにげなくドストエフスキーの『罪と罰』を抜き出してみたのだそうです。
「初めてちゃんと読んだら泣けて泣けて、すごいと思いました。本というのはおもしろいんだと気づいて、それから文学全集を全部読んだのですが、結局おもしろかったのはそれだけでした」
じつは私も高校時代に父の本棚からひっぱりだした『罪と罰』、そして夏目漱石の『こころ』の2冊には、読み始めたらやめられなくなって生まれて初めて徹夜をしたという体験があり、強く記憶に残っています。 (大島弓子の『ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコリーニコフ』も『罪と罰』の少女マンガ化ですね)
それでは、本とそのようなインパクトのある出会いをしたことのない人に、なにか言えることがあるとすれば?
「本は”高尚なもの”という勘違いをされがちですが、そんなことはまったくありませんので、からかい半分の気持ちで読んでみてください」